ジーコ・鈴木特番

昨夜のTBSで放送されたジーコ監督と鈴木通訳の特番を見ました。番組全体の構成としてはTBSの「日本サッカー協会に嫌われたくない」という姿勢がちらついていましたが、それでも通訳という内部にいる方の話は面白かった。


以下はオーストラリア戦の小野投入前後の番組の解釈。

久米: 小野への指示はあったんですか?
鈴木通訳: 特別な指示はなかった。とにかく彼のキープ力とかボールを散らす能力とかパスも出せるし、この時点では絶対にボールをキープしたかったはず。特に(DFラインが)何とか弾き返したボールを中盤でキープしたかったはず。
宮本インタビュー: 僕自身はボールをしっかり回す、そして時間を有効に使う交代なのかなという印象は受けました。
中沢コメント: (小野に)守備に戻るな、前でプレーしてくれ。
小野コメント: 福西さんを一人にしても大丈夫だろうと賭けに出ました。
中村コメント: 中盤の守備が最初は二人いたのに、福西さん一人という中途半端な状態になった。

最初の失点自体はロングスローのこぼれ球を押し込まれたのですから、特にこの交代が原因だとは言い切れませんが、それでもチーム内が混乱していたことは事実なのでしょうね。

久米: ロングスローからの失点について
鈴木通訳: ジーコは基本を大切にする人。オーストラリアがロングスローを使うという情報はあったから、練習していたがGKが出るという練習はしていなかったと思う。でも、それ(選手の自由)を任せたのはジーコだし、選手が個人個人でチョイスする。でも、基本的には練習でやった形をやろうよ、というのがジーコのスタンス。

番組の分析するジーコサッカーの特徴だそうです。
1.自由

ジーコの前任者のトルシエ監督は選手を歯車のように扱い、その動き方を規律で縛った。ボールの位置によって選手がどう動くのか、それをマニュアル化し、選手の自主的な判断には任せようとはしなかった。ジーコは、そのやり方と正反対のスタンスを取った。

組織化された守備というのは、トルシエだけでなく世界中のチームが取り入れていること。逆にこの番組に聞きたいのは組織化されない自由な守備をしている有力チームが世界中のどこにあるのか。守備組織の構築と自由は同じレベルの議論ではない。このような言葉のまやかしを未だに使うのか。番組の認識の低さに呆れます。アホか。

(ナレーション)選手を規律で縛り、動き方を体で覚えこませようとしたフィリップ・トルシエジーコはそんなやり方に反論する。
ジーコインタビュー: 規律で選手を縛れるという考えは机上の空論でしかありません。そんなことで選手をひっぱっていけるかというと、非常に難しいと思います。大事なことは練習を通して一人一人の選手に自主性を持たせることです。そのために選手とは常に話し合いをして、お互いの気持ちが分かり合えなければならないと思います。


2.中田英寿

中田英寿の存在はジーコと日本代表にとって常に大きな存在だった。代表を引退する気持ちだった中田をジーコが話し合って説得した。代表チームに参加した中田英寿だが、自分の意見をはっきり言う彼の存在は、時としてチームから浮いてしまうこともあった。去年の3月のテヘランでの紅白戦のさなかに、中田と福西が口論になった。しかしその時ジーコは、「これでいいんだ。殴り合いになれば止めに行こう」と見守っていたという。


鈴木通訳: ヒデの発言の仕方とまわりの受け止め方はある程度ギャップがあったと思う。完璧にヒデが浮いているというのは、ジーコが言葉が分からなくても分かるし、食事も1人で離れて食べたりスタッフと食べたりしていた。そこをジーコはつくわけですよね。やり方があるだろうと。もう少し受け入れられるやり方。自分を捨ててというわけじゃないけれども、自分の要求をチームに伝えるということが大切なら、少し回り道してもいいじゃないかという表現(で中田に諭した)。ジーコが「実はヒデ、俺も昔はそうだった。自分は決してバリアーを張っているつもりはないし、人を遠ざけているつもりもないけれど、何か人が寄って来てくれない。それでも自分はチームメイトである。なんとかしてというと、やっぱりどうしても自分が他の選手のところに自分から入っていくしかない。そういう部分で努力をしないと、もう一皮むけないぞ」というような話をしたことを覚えている。


3.選手へのリスペクト

鈴木通訳: まだ監督を受ける前の話ですけれど、オレが監督だったらという話をしたことがある。まず、雰囲気作りから始めるな。Jリーグは凄いハードなスケジュールで選手たちは本当に疲れきっている。だからサッカーで一杯一杯になっているんで、代表に来たらアットホームなかたちで、ご苦労さんと。みんなエリート集団なんだから、自分たちで楽しんでサッカーやろうよ。だけど国は背負っているわけです。そういう雰囲気作りからやりたいと言っていた。
久米: マスコミの前で選手の悪口は言わないと。
鈴木通訳: 絶対言わないですね。
久米: 1人になった時は言うんじゃないですか?
鈴木通訳: ブツブツは言いますよ。俺に言っているわけじゃないけれど、独り言を言っているのは聞こえるわけです。「なんであのボールが入らないんだ…、なんでこうなったんだ…」というようなことは言ってますよ。でも、絶対に公の場では言わないですよ。通訳してて思うんですけど、どうやってかばうんだろうと思うんですよね。何か独特な、ちょっと支離滅裂かなと思うような理由をつけながらかばうわけですよ。素人が見てもこいつ最低じゃんと思うようなときでも、どんな理由をつけてもかばうわけです。自分が本当に大事にしている選手を、ボロボロになりながら守ってきたわけですね、最後まで。


以下はクロアチア戦前の練習で。

ジーコが中田を呼んで、あまり前に出すぎることがないよう注意をした。これまで中田にほとんど注文を出すことがなかったジーコが。ジーコの中で何かが変化していた。前日の公式練習前のミーティング。通常ピッチで行われるミーティングがこの日に限ってはロッカールームで行われた。ジーコはスタッフを外に出し、選手たちだけに話しかけたという。「私の指示通りに動いてくれ」。細かい戦術は選手同士の話し合いに任せてきたジーコが、今までにない言い方だった。


鈴木通訳: 4年間そうだったんですけど、選手たちがそれぞれ自分の考えを言い合うというのは、このチームでは普通だったんですよ。でも、クロアチア勝負ですよね。クロアチアに負けたら全然可能性がないわけですから、選手たちも第一戦に負けたことで気ばかり焦ってしまって、自分でこうしなくちゃいけない、ああしなくちゃいけない、あれだけの人数がいるわけですから、23人がもうほとんど考え方が別ですよね。話し合ってはいるんですけども、そこでまとまったものが出てこなかった場合、後で悔やみきれないという気持ちがジーコにあったので、ここは自分に任せて欲しい。良くても悪くても自分が責任をとるから、自分の指示通りにやってくれ。クロアチアに対してどういう守備的なものをとるのか。相手のエンドに行ってボールを取られた場合、そこではプレッシャーをかけずに、全員が1回引くんだと(指示を出した)。

ここにきて本当の監督としての覚悟が決ったのですね。では特徴の自由と自主性はどこにいったのでしょう。理想と現実の違いにようやく気がついたのか。

久米: 具体的な指示は初めてですよね?
鈴木通訳: そうですね、あの種の指示はおぼろげながら流れの中ではやっていたのですが、具体的な指示を出したのは初めてですね。

久米: 3戦を通じての中村選手の体調について
鈴木通訳: 熱もかなりあったんですけど、試合の前は下がってたんですね。ドクターもこれならいけるでしょうという判断でいったんですけれども、本来の調子とはかけ離れていた。それでもジーコは使うわけですよ、一発のスルーパスっていうのは今まで色んな情況の中でチームを救ってきましたし、フリーキックとかで。最終的に拮抗した試合の中で試合をを決めるのは個人の技術なんだという考えなんですよ。


ブラジル戦の前に。

鈴木通訳: 情報が入ってジーコが考えているメンバーと違ったわけです、相手のスタメンが。若手を入れてきたんですけれども、これを見た時”うわっ”て言ったんです。これはやばいぞと、多分これが最強のブラジルだと。若手は運動量も豊富だし、たまたま来たチャンスなのでものすごくアピールする。モチベーションも充分ということで、ある程度誤算というか、そういう部分がジーコの頭の中によぎったと思うんです。

(玉田の先制について)
久米: 監督から玉田への指示はありましたか?
鈴木通訳: 練習の時に本当に厳しいことを言われてましたね。ちょっとでもミスすると「お前は全部枠に入れなくちゃいけないんだ」とか、かなり個人的にも言われてましたね。玉田が元気がなかったので、元の調子に戻そうと必死に声をかけていた。

(前半ロスタイムにブラジルに同点に追いつかれたとき)
鈴木通訳: あの時にジーコが初めて語気を荒げそうになったんですよ。「こんな点を…こんな時に取れられるなんて……、まあしょうがない」という感じでしたね。そのまま訳しましたよ。負けたようなロッカーでしたよ。

久米: ブラジル戦後のジーコは何か仰ってましたか、鈴木さんにあるいは選手に?
鈴木通訳: いろんな思いがあの中に交錯してたと思うんですけども、本当に絶望というか、呆然自失だった。後半の球まわしを見せられた時に、ベンチでジーコに何とかならないんですかって聞いたんですよ。「言っただろう、ブラジルはリードしたら絶対コレやってくる。コレやらせちゃダメなんだ」。逆に言えば、あぁ、始まっちゃったという感じ。これが始まったら、誰かが反則で止めない限り止らない。カード覚悟で。でも、それすらやれる余裕もなかった。ジーコの頭の中にはリードしているときに基本として、あのブラジルのパスまわしがあった。それを目の前でやられている悔しさと、かといってどうしたらいいんだ…、という部分でね、(鈴木通訳の感じたところでは)あまりにもとんでもないことを感じてしまうと人間は泣けないということですね。涙なんか出てこないと。何がなんだか分からないと。この状況、この空気は何なんだと。これで4年間が終わってしまった。あれだけ多くの人、日本中を巻き込んだ4年間がこういう形で終わってしまったという、本当にいろんな気持ちが交錯して、口もきけない状態。まともにものが判断できないと言うか。独特の雰囲気でした。

日本代表監督としてのジーコさんにはいろいろと思うこともありますが、それでもこの番組で紹介された日本サッカーとジーコさんの関係をあらためて振り返ると、やはり感慨深いものがあります。途中の番組のサッカー観には呆れるものもありましたが、それでも面白い番組でした。

大宮 - 甲府

helguera2006-07-22

駒場スタジアムに行ってきました。
大宮サポでもないのに、2試合連続の駒場通いとは…。今日も雨が降りそうで降らないという、7月とは思えないような涼しい気候でした。それに加え大宮はWCの中断をチームとして有効に使えたのか、フィジカルコンディションが非常に良いように感じました。選手の動きにキレがあるように思います。ただ、技術は相変わらずだと思いますが…。


前半はまるで久永劇場。今日もメインスタンド中央で見ていたのですが、前半は大宮の左サイドMFの16番久永選手が目の前を行ったり来たりしていました。試合が始まって間もなく、久永選手がイージーパスミスから甲府にボールを渡し、そこからの攻撃で甲府が大宮ゴール前に攻め込みシュートまでいってしまいます。甲府のシュートはクロスバーに当たり真下へ落ちて、かろうじてゴールラインを割らずにピッチ内に戻ります。さらにその混戦の中から甲府の選手がヘディングで押し込もうとしますが、これはGKに対するファールということで今度はボールがゴールの中に入ったにも関わらず得点とは認められませんでした。


「何やってんだよ、久永」と思う間もなく、前半の8分、今度は大宮のカウンター攻撃で左タッチライン上を風のように駆け抜ける久永選手。「どうせクロスが合わないんでしょ」などと思って見ていたんですが…。大宮のカウンターはニアに桜井選手が切れ込み、ファーにグラウ選手が流れ、そこに久永選手のクロスがドンピシャでグラウ選手の頭に届き、大宮が先制します。素晴らしいピンポイントのクロス、素晴らしいファインゴール。
さらに立て続けに桜井選手がDFラインの裏に抜け出しGKも交わして前半の14分で大宮が2−0とリードを広げました。


しかし、久永選手を褒めたのも束の間、前半の22分には左サイドの久永選手からのサイドチェンジが右サイドの誰もいないところに流れ、ピッチ上の選手を避けるように通ったボールを甲府の選手が拾いそうになります。慌てて後方から対応に上がってきた波戸選手が甲府の選手と絡んで倒れてイエローカードを貰ってしまいました。この波戸選手のイエローカードの9割以上は久永選手が呼び込んだイエローでしたね。
でも、「やっちまった久永」と思ったのも束の間、今度は前半の20分に再び左サイドを駆け上がり、グラウにラストパスを通し2個目のアシストを決めてしまいました。これで前半は大宮の3−0で終了。前半だけでMOMを決めるなら2得点のグラウ選手かもしれませんが、MIPという一番印象に残った選手を選ぶなら、攻守に活躍?した久永選手でしょう(笑)。
大宮 vs 甲府:試合終了後の各選手コメント J's GOAL

久永辰徳選手(大宮):
「最初のピンチがあって、もしかしたら逆の展開になっていたかもしれない試合。相手に最初の点が入らなくてよかった。1点目は中が見えたので、グラウにあわせたわけではなくて、あのあたりに蹴った。グラウが良く入ってくれたと思う。3点目はねらったところに蹴れて満足している」

あのあたりかい(笑)。


後半は甲府が開始から大宮を押し込み、後半2分にPKをゲットし1点を返します。これ以降も甲府が押し気味に試合を進めますが、大宮にも惜しいチャンスもあり一進一退の攻防が続きます。「次に甲府に得点が入ったら荒れるな」と思いながら見ていたのですが、結局そのままどちらにも得点は入らず、大宮の快勝に終わりました。
フジカルコンディションが良さそうに見える大宮に対し前半は成す術もなかった甲府でしたが、最初のクロスバーに嫌われたシュートが入っていたら…。1点を返した後にさらに際どい倒され方をしたプレーも大宮のファールと取ってもらえていたら…。そんな”たられば”がいくつかありましたが、結果は完敗でした。大宮がJ1の先輩としての面目を保ったという所でしょうか。甲府には林健太郎選手やバレー選手など、昔よくスタジアムで見た選手がいるので心の中では応援していたのですが、残念な結果で終わってしまいました。まあ、大宮の3点のうちの1点を取ったのが桜井選手だったので、まあいいか。