オシムに聞けっ!

元旦にNHKで放送された「オシムに聞く」を見ました。ホテルの1室でNHKの山本浩アナウンサーが1対1でインタビューしていますが、オシム監督の答えが長い。見逃した方のために、以下は私が気になった質問の答え(の要旨)です。

Q:ジェフの監督時代と代表監督の現在の1月1日の過ごし方は、何か違いますか?
オシム:ええ、違いますね。その違いについて言えば、課せられた義務が違います。ジェフの監督と代表監督の義務が違うのは当たり前でしょ。今の私は代表監督がジェフの監督時代とは違うのだということを実感しているところです。もちろん、その役割にふさわしい行動をとっているつもりですよ。それにジェフ時代には許されていたのに、代表監督になってから諦めねばならなくなったことがあります。ジェフ時代にはもっとヨーロッパに戻る余裕があったし、家族と過ごせる時間もありました。代表監督になってからは、だいぶ事情が違います。直接クラブの面倒を見る必要はなくなりましたが、代表チームを指導しないといけないですから。もちろん、代表監督としてその場その場でできることは限られています。しかも、最後に待っているのはワールドカップなのです。今はアジアカップの対戦相手の情報を入手することに専念しています。

Q:クラブの監督と代表監督の仕事には大きな違いがあるか?
オシム:それは私だけの問題ではありません。他の代表監督もそう感じていることでしょう。両方の仕事を分析してみれば、まったく別の仕事だと分かるはずです。代表監督は選手を選抜して新しいチームを作るわけです。でも一般的に言って、代表監督には時間がないのです。この日本ではその時間があまりありません。
それに対してクラブの監督はもっとチームのことに時間を割く余裕があるはずです。毎日選手のそばにいてあげることが出来るし、自分が望むチームを作り上げることも容易でしょう。代表監督に就任してからの仕事は、クラブ時代とはまったく違うものでした。まず、選手といる時間がないからです。選手はJリーグでプレーしないといけませんし、クラブにはクラブのスケジュールがあります。
また、代表の何人かは海外でプレーしています。そうした選手を簡単に日本に呼ぶことは出来ません。今は国内にいる選手を招集して練習するしかないのです。代表選手は監督の特徴をよく知っておくことも大切です。監督が何に興味がありどんなアイデアを持っているか、その時々に何を考えているか、代表選手は心がけて知っておく必要があります。その逆に監督は選手がだいたいどんな人間であるか、何を考えているか、またどうしたらその選手が描くビジョンを実現してあげられるか、そういったことを考える必要があるのです。
それらの情報をできるだけ早く収集し、各選手を一つのチームとしていかに機能させるか考えるのが代表監督の仕事です。それ以外にチームを作る方法はないと思います。

Q:最初の練習は考えた末の練習のスタートだったのでは?
オシム:サッカーについての考えは千差万別だと思うのですが、日本の選手が日本の選手であることは変えられません。日本には日本独自のサッカーがあるのです。私は選手のキャリアやプレースタイル、メンタリティなどを把握し、日本代表の特徴を長所も短所も含めて最大限に生かすようにできることを手伝っているに過ぎません。もちろん、短所より長所が目立つようにです。
日本人のサッカーはメンタリティの部分からして充分に質が高い。このスポーツに向いていると思います。もしかしたら、他の国も日本についてそう感じているかもしれません。但し、私たちはまだその可能性に目を閉じたままでいるのです。自分の目を開けないといけません。今、何をしなければいけないのか、自分の目で見てみる必要があります。他の国の真似をせず、日本独自のサッカーを目指すことは容易なことではありません。人はリスクを冒したくないし、間違いを冒したくないものです。他の国がやっているサッカーの後を追いかけるほうがずっと簡単です。でも過ちを恐れていては、前進することはできません。

Q:日本が技術の高い選手を好む傾向についてどう思いますか?
オシム:日本人の技術について、来日した時に個人技の高さにびっくりしました。しかし、時間が経つにつれその技術の高さは動きが止まったときのものだと捉えるようになったのです。ピッチでそういう印象を受けたのです。動きが止まったときの技術、静的な技術は言ってみれば簡単です。それを日本人選手がみんな持っていることは練習の中でも確認できた。しかし、全てのプレーは動きの中で行われます。現代サッカーで重要視される、動きの中での技術はまだまだレベルが低いと思います。いくつかの技術全体の平均をとった場合、日本はいくつかのヨーロッパの国々を上回っているかもしれません。しかしヨーロッパの方が効率が良いのです。ヨーロッパの選手は動きの中で、日本の選手にはできないことができるのです。
運動量に関しては「これ以上走れない」という言葉を良く耳にしますが、そんなことはないでしょう。そういう選手はサッカーがより多い運動量、長い走り、多くの競り合いを要求され続けていることをもっと意識するべきです。イギリス人やドイツ人など身長が高い相手と比べて、日本人はやや身体的にハンデがあることを踏まえても、答えは明らかです。つまりこれらの相手と対等に戦うためには、自分たちの欠けている部分を補わなければならないのです。それをどうやって補うことができるかと言うと、相手より運動量を多くすることなのです。相手が自分たちより身長が高く身体的に強い場合は、より多く動く必要があります。同じ程度の走りだったら、全体的に相手が有利になってしまうのです。しかし、運動量で上回れば話が違ってきます。

Q:欧州にいる選手の力をこの先どのように考えているか?
オシム中村俊輔選手のことはよく知っています。特にセルティックでコンスタントに試合に出ている今ですね。これはまず本人にとっても日本代表にとっても、大きいと思っています。率直な意見ですが、しかし彼はセルティイクで見せているプレーを日本代表でもできるか。私はセルティックが多くの点で自分たちのプレーを中村に合わせて組み立てていると申し上げる必要があると思います。日本代表も中村に合わせてチームを作ることができるかは別の問題です。
一方で抜群の才能のある選手がいるならば、チームをその選手に合わせることも考えるべきです。つまり、中村がうまくプレーできるように、チームを組み立てることを考えます。しかし私が思うに、いいプレーをする選手が1人だけいて、その選手のためだけにシステムや戦術などを作るならば、成功の見込みはあまりないと思います。ですからどちらかというと彼が自分をチームに合わせるべきです。
と言っても中村が試合に出て活躍していることを嬉しく思います。先に国内にいる選手を試してみましょうよ。なぜなら海外組を呼び始めたら、選択肢が狭まってしまうからです。つまり海外組を使ったにもかかわらず、イメージ通りにうまくいかないという状況が生じた場合、修正の余地がないからです。そうなると選択肢がなくなる。もう、どこからも選手を呼べないのですからね。しかし現在の状況では内容が悪くうまくいかなくても、改善が可能だと期待できるのです。なぜならまだ中村、高原、中田、松井、稲本、大黒、小笠原などを使っていないからです。ところが今の段階で彼らを使ってしまうと、チームの構成としてもう行くところがないのです。三都主と宮本も海外に行きますし、彼らはとてもよい選手でそして力にもなってくれると期待しています。その力が必要な時に借りれば良いのです。
私はこれからすでに実績のある選手にも間違いなく機会を与えます。特に彼らを使って何をどこまでやれるのか確認したいので、海外にいる選手にも当然チャンスを与えます。これぐらいなら、約束できますよ。


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オシムに聞けっ!!! (完結編)