2004年ジーコ監督会見

12月16日をもって日本代表の今年の活動が終わりましたね。紆余曲折がありましたが、公式戦だけをみればアジアカップ優勝、そしてワールドカップアジア1次予選6戦全勝で突破と本当はジーコ監督にも日本代表の選手たちにも文句のつけようがない成績なのですよね。これで文句を言ったらバチが当たる。でも、なぜかOK、オッケー、オッケー牧場と全てを肯定して終われない気持ちのモヤモヤがある。それはなぜかなと考えたのですが、どうも公式戦以外の親善試合を含めて日本代表が順調に強化されている実感がないからだと思うのです。


それで、とりあえず公式戦は除いて親善試合後のジーコ監督の会見を見直してみたのです。公式戦は結果が全てだし、その結果は前述のように申し分ない。でも、なぜか不安が残る。もちろん試合直後の会見で監督が本音を語るわけでもないでしょうし、引用の関係で全文を載せられるわけでもありません。引用者である私の選んだ部分ですから、かなり会見全体の印象とは離れてしまうかもしれませんが、お付き合いください。


2.7 マレーシア戦後 ジーコ会見 4−0

――選手交代を多くしましたが、これはワールドカップ予選を見据えてですか? また、3バックを試さなかったのはどうしてですか?

 18日の試合(ワールドカップ1次予選・オマーン戦)を見据えてみんなに試合勘を取り戻してほしかったというのが第一の理由です。
 3バックに関しては、今日は考えていませんでした。選手たちはJリーグのチームでは3バックが多いので、なじみがあります。ですから、より長い時間4バックでやりたいと思っていました。


――今日の試合を終えてみて、18日に最高のコンディションに持っていく確信が持てましたか?

 自信はありますね。と言いますのは、今回、合宿を経てきたわけですが、選手たちの動きが初日からものすごく良かったわけです。これは、体力テストの数値にも出ていました。気持ちの表れだと思っています。鹿嶋に移って戦術的な練習に移ったんですが、ここでも良い動きが目立っていました。ですので今日の試合も、疲れが見えるかな? とも思ったんですが、そんなこともありませんでした。木曜日のイラク戦を経て、われわれはスタッフともども、18日を最高の形で迎えられると確信しています。


――今日の中盤はいわゆる「国内組」でしたが、出来はどう評価されていますか? また、「海外組」が来たら優先的にメンバーに入っていくのでしょうか? それともミックスしていくお考えですか?

 国内組の選手たちがこれだけレベルアップし、さらには海外組の選手たちもいる……、まさしく、自分が監督として悩んでみたいと思っていた状態が来たなということで、大変うれしく思っています。海外組の選手たちに関しては、もちろん技術的には何の問題も無いわけですが、状態が万全なのかどうか一人一人と話し合ってみて、気持ちの問題や周囲の選手たちとのハーモニーの問題など、いろいろ試してみて自分で決定していきたいと思います。(中略)その時点で「勝てる」と確信したメンバーを送り出したいと思っています。

 だれもが「日本は本大会に行くんだ」という強い気持ちで見守っていてくれていると思うんですが、私もそれと同じくらい強い気持ちでいますので、選手起用などの点では自分なりの哲学を崩さずに選出していきたいと思っています。


――選手交代ですが、4人のDFを一気に代えましたが、例えば2人ずつ代えるとかすれば選手同士の組み合わせも幾つか観察できると思うんですが、そうしないのは監督のサッカー観みたいなものがあるのでしょうか?

 DF同士の組み合わせに関しては、いつも練習で見ていますので、だれと組んでもそれほど問題はないと思います。そのほかの選手たちも、「試合勘を戻させる」という意味で全員出したかったので、一気に代えたというわけです。このチームでは、だれが出ても力を発揮してくれることはわかっているので、自信を持って送り出しました。


2.12 イラク戦後 ジーコ会見 2−0

完勝はしましたが、内容的には厳しかったと言わざるを得ません。(中略)内容が芳しくないときにでも勝利したという部分を、これから始まる予選にどう結び付けていくかということが大切です。予選の中東との戦いでは、今日みたいにうまくいかない、気ばかりが焦ることがあると思います。その中でいかに落ち着きを取り戻して局面を立て直すか、そういう精神的なものが教訓になったと思います。


――テストマッチを終えて、手ごたえの部分と不安な点を教えてください

 特に目についたというか、予選で絶対にやってはいけないのは、セーフティでなければいけないゾーンで、少し緩慢になって2人、3人で寄せられてボールを奪われてしまうということがあります。特に最終ラインなどなるべく早くセーフティゾーンに遠ざけなくてはいけないところで、そうできないシーンが幾つか目についたので、この辺りの意識の改革をもう一度確認したいです。(中略)相手が素晴らしいプレーをして点を奪われるのは仕方ないですが、こちらのミスで失点するのは精神的にも痛いので、これを絶対にしないようにしていきたいです。

 良い点は、サイドからかなり良い攻撃ができるようになりました。ただし、センタリングのボールの質が少し悪いですね。「センタリング」ではなく、「ゴールエリアに送るパス」という、そういう意識で行くと精度が上がります。今日も、アレックス(三都主)や山田(暢)が切り込んできたときに、中でしっかり三角形を作ってニアとマイナスにポジションを取る、そしてそこにパスを送るイメージですね。


――クロスボールを簡単に放り込まれ過ぎたと思うのですが

 一番危険なのは、精度の高いボールを上げられることだと思います。これをやらせないようにするには、必ず2対1を作って相手に自由にやらせないことが大切です。ただ、100パーセント、クロスボールを防ぐことは無理なわけです。ですから、いかにフリーで蹴らせないか、精度の良いボールを上げさせないか。そして、中のマーカーが相手をきちんと捕まえてフリーにさせないということです。シュートもなるべく自由にさせない、体制を崩させるということです。一番怖いのは、ハーフウエーライン辺りからボンボン放り込まれることですが、大切なのはしっかりマークしてずらさないことです。戻りながらセンタリングに対応するのは厳しいので、いかに自由にさせないかですね。


2.18 オマーン戦 1−0
3.31 シンガポール戦 2−1


4.25 ハンガリー戦後 ジーコ監督会見 2−3

47分、レフェリーによって両チームの素晴らしい戦いが台無しになってしまいました。勝った方も、やはり勝ちの内容、あのような形(微妙な判定のPK)で最終的なゴールが入ってしまったことは残念でしょうし、負けた日本としてもあのような形で負けてしまい、非常に残念に思います。そして最終的には、グラウンドで何が起こったかということは後々は語られず、3−2でハンガリーが勝って日本が負けた――この事実しか残らないわけですね。非常に残念です。


――守備がセットプレーとPKで3失点、日本の今日のメンバーの経験不足がそのままピッチで出たような試合だったのでしょうか?

 サイドからのFKで点を取られました。ただし、それ以降の対応は非常に良かったと思います。やはりなかなか一緒に練習ができない中で、取られるべき形といいますか、想定されたのはあの辺りですから、それはちょっと残念です。

 ディフェンスとしては非常によくやっていたと思います。ただしFKでやられてしまうというのは、最初からそのFKを取らせないように、ファウルをしないようにというのが望ましかったですね。しかし、相対的にはよくやっていたと思います。


――前日に「精神的な強さを見せてほしい」と仰っていましたが、試合が終わっていかがですか?

 0−2から全く気落ちせずに、どん欲に点を狙っていく、また3点目のチャンスを作り出したということでは、本当に十二分に気持ちを見せてくれました。最初から最後までその気持ちはグラウンドにみなぎっていたと思います。最後の47分、非常に恥ずかしい形で負けてしまうには値しないチームでした。


――この結果も踏まえて、今日の試合が長い代表強化の中でどういう意味、収穫のある試合でしたか?

 最終的には負けはしましたけれども、戦術的な面ということでは、攻守の切り替えの速さ、球が非常によく動くサッカーの中で、実際にこの数日間やってきたトレーニングがそのまま点につながったことが非常に大きかったです。これは自分たちが目指している形が見えるような結果、そういう形のゴールでしたし、やはり狙いが出てきたという意味では非常に大きな意味があるゲームでした。


――今回は慣れているということで3−5−2でしたが、今後に向けて3−5−2をもっと多くやろうという考えはありますか?

 十分ありますね。やはり起用する選手によって、その方が力が出せるということであれば憶せずに使いますし。また、元の4バックの形にしても機能すると思います。


4.28 チェコ戦後 ジーコ監督会見 1−0

――ハンガリー戦とほとんど同じメンバーで、ここまで良くなったのはどうしてでしょうか?

 ハンガリー戦からもそうだったんですが、こういった短期間、前の試合と次の試合との日数が少ない状況では、とにかく今彼らが一番慣れているシステム、ポジションでやらせるということです。そして、前に起こったゲームの修正をすること。ポジションは自分たちのクラブでやっているものと同じですから――唯一藤田がトップ下ということで、彼はクラブではどちらかというと左サイドを担当しているんですけれども――その部分が違っただけで、後はもう息が合えば、基本的な前の試合のミスが繰り返されなければ気持ちで行けると感じました。それを今日のミーティングで確認し合って言ったんですけれども、本当に短期間で、あれだけの能力の選手たちですから、このミスをしてはいけないということを確実に守ってくれました。


――この2試合で出てきた課題と収穫点を

 チェコ代表という本当に強いチームと、相手のホームで対戦して、自分たちの技術が通用する。そして勝ちに持ち込めるということ。私がこのチームに持って一番欲しかったのは、自分たちの力を信じるということですね。本当に世界的なチームに対して勝負を挑めるということ。ハンガリー戦もそうですけど互角以上の戦いをし、結果を求められる中で自分たちが本当に戦えるという自信がついたというのが、一番大きいと思います。

 これから先、ワールドカップ予選など難しい試合が控えているわけですけれども、それぞれのチームによってスタイルも違いますし、システムも違うということで、一つ一つ対処していきたいと思います。ただ、基本的には“気持ち”ですね。自分たちができると信じることによって、ものすごくポテンシャルが上がると思っています。やはり、このような試合を用意していただき、それに選手が応えていったことが、戦術以前の大きな収穫だったと思います。


――欧州組と国内組の選手について

 基本的な考えとして、ヨーロッパでプレーしている選手それぞれのクオリティーが高いということは、昔も今も変わりません。ただし、彼らが果たしてそのチームで試合に出ているかどうか、あるいは置かれている状況によっては、どちらかというとフィジカルコンディションの問題があります。一つ一つの試合を勝ちに行くためには、その辺りのところを見極めなくてはなりません。

 逆にいうと、自分が一番うれしく思っているのは、同じチームの中に、そういったクオリティーの高い、そしていろいろなコンディションの選手がいるということですね。例えばある時間帯、一定の時間帯で、導入のところはやはりヨーロッパ組のクオリティーを生かしておいて、コンディション的に難しくなったところで、国内組のクオリティー、プラス、コンディショニングのいい選手を投入すると。

 敵を多く引き付けさせ、そしてポンっと元気のいい国内組を出すことによって、彼らの資質、コンディショニングの良さを勝利に結びつけるということが、非常に大きな戦術だったということです。これからもそれは続けていくつもりです。本来であれば、やはり全員のコンディショニングを良い方向に持っていけるような状況になることが一番望ましいとは思います。しかし当面のところは、いろいろな種類の選手が自分のチームの中で使えるというのが、非常にありがたいことです。


5.30 アイスランド戦後 ジーコ監督会見 3−2

――今日の試合について一言お願いします

 当然のことながら、勝ったことは非常にうれしく思います。勝ち方も、先制され、アウエーの雰囲気の中で引っくり返し、最後にはいわゆる強豪相手に勝ちをもぎ取ったということで、多分今までの歴史の中であまりなかったことだと思います。そういった意味でも非常に満足していますけれども、しかし、問題は内容ですね。特に後半、あれだけのチャンスを逃してしまいました。今日はフレンドリーマッチ形式でいいとしても、本番のときに果たしてこのようなことが起きた場合、最後に自分たちの首を絞めてしまうのはやっぱり自分たちです。この辺をもう一度確認しないといけないと思います。


――前半の45分間は監督が思い描いていた理想的なゲームだったと思いますけれど、前半の45分間について

 問題としては、ハーフタイムにも指示をした点なんですけど、本当に基本的なことです。例えば坪井が稲本に出したボールに対して、パスを出してから必ず一声かける。受け手がどういう状態でいるのか、誰か背負っているのか、こういった基本的なことがなされていないために、あそこで後ろからつっかけられて、そのボールをかっさらわれて、それをきっかけに点を取られてしまう。これは本当に基本的で、コミュニケーションがあれば絶対にあの失点はなかったと思います。

 自分たちが間違ってはいけない点としては、やはりリスタート。相手は体格的に勝っていますから、どうしてもリスタートを狙ってくる。ということは不必要なファウルは避けていくということ。まず相手にフリーキックをさせないというようなことから始めないと、どうしても放り込まれる。相手も経験がありますから、やはりDFを抑えながらその辺りのところを有利に展開してきますので、今日も2点取られてしまいました。これが日本にとってこれからすごく深刻な問題になってくると思います。


――前半3バック、後半4バック。この思惑は?

 ゲームの中でいきなり変えることによって、精神的な動揺、マークのズレが出てくるということもあります。3バックにしても、4バックにしても、選手が非常にスムーズに移行ができるということになっています。その辺の狙いですね。いきなりシステムを変えた場合(相手が)どう出るか。前にも何回かやりましたけど、(システムの)移行がかなりスムーズになってきています。ですから、やはりシステムを変え、相手が混乱してきたときにうちがチャンスを作り、いかにそのボールをゴールに押し込むかということが課題だと思います。


――最後の方で相手に何度もシュートを打たせてしまったのは、フィジカル上の問題ですか? それとも守備的に何らかの欠陥があるのでしょうか?

 ポイントとしては、相手は確実に勝ちにくるために、後半特にわれわれがリードしている場合は、大きなボールを放り込んできます。前の人間が合わせて、それに対して直接シュートを狙うか、あるいは2人か3人くらいの選手が飛び込んでくる。この戦法は、これからも日本に対して使ってくるでしょう。これを100パーセント防ぐというのは不可能ですから、この辺はもっとずる賢さというのが経験上必要だと思います。


6.1 イングランド戦後 ジーコ監督会見 1−1

――今日の試合の印象について一言お願いします

 前半立ち上がり、相手の出方を見過ぎました。それによって彼らのクオリティーの高い中盤でのボール回し、あるいは人が動くという形を受け入れてしまった。(中略)

 先制はされましたけれど、後半に入って同点にして、非常に多くのチャンスも作り出して、落ち着きがかなり出たと思います。自分たちが回すべきときは回す。あるいは守備のときでも切り替えの早さ、落ち着き、そして周りが非常に見えているということで、逆転してもおかしくない展開でした。これによって日本は、ここにただ単に試合をしに来たんじゃなくて、勝ちに来たチームであるということを皆さんに分かってもらえたと思いますし、非常にいい出来だったと考えています。


――今日2トップを交代しましたが、インド戦がなければ2人を交代させませんでしたか? 交代によって流れが悪くなったと思いますが

 非常にお答えするのは難しい状況です。というのもインド戦がなかったら……。彼らのけがの状況ですよね。玉田もアイスランド戦で非常に厳しいタックルを受けて一針縫っている。久保もひざ(の故障)を抱えている。インド戦で完ぺきな状態に近くしたいということから考えると、難しいところですよね。ただし、鈴木は非常に良かったと思うんです。柳沢はちょっと悪い癖で、中途半端な部分が出ていましたけれど。ともかく全体のバランスが取れて、誰が出てもおかしくない状態にするのが自分の理想です。


――前半は相手にびびっているようでしたけど、後半はずっと良くなった。ハーフタイムにどんな指示を?

 気持ち的な問題。相手の名声、あるいは彼らが世界的にどれだけの力を持っていたとしても、自分たちの目指しているサッカーがしっかりできれば、いつも練習している通りの形ができれば、それほど恐れるものではないと。ただし(相手のことを)受け入れてしまうと、やっぱりきつい部分が出てくる。だけど1点入れられて、あの時点でちょっと頬(ほお)を平手打ち食らったような形で、あそこからチームが良くなった。

 後半はさらに良くなりまして、自分たちの形でゲームを運べるようになったので、よかったと思います。これが1点取られる前だったら、もっといい結果になってたんじゃないかなと思います。でも非常によかったですよ。


――引き分けでしたが、勝ったような、もしくはそれに近い手ごたえがあったのでは?

今までは日本が国際大会に出て行って、相手に先制されたりと気合で負けてしまったりして、あぁ、もう駄目だという部分が選手の中で起こったのか、あるいは技術があまりついていかなかったのか。非常にいい成績が(先制されると)望めなかった。今は違いますよね。逆境になっても最後まであきらめるな。俺だけ信じてどうするんだ。みんなが各自でチームの力を信じなきゃどうにもならない。それが実際に彼らの強さになってきた。技術以上に精神的な力。(7月の)アジアカップは今回アウエーで戦うわけですから、この強さを今後もっともっと見せてほしい。今まではよく「日本はここに学びに来ました」と。「俺たちは日本に対してレッスンしてやっているんだ」という風潮が非常に多かったんですけど、このチームは逆に“どうやってサッカーをやらなきゃいけないか”ということを世界に教えることができるような素晴らしいチームだと思います。


6.9 インド戦 7−0


7.9 スロバキア戦後 ジーコ監督会見 3−1

――前半はリズムがよくなったようですが、後半になってかなりテンポアップできましたね

 前半は相手の9枚ぐらいが、がっちりと真ん中を中心に固めてくるということは分かっていました。あれだけの体格の男たちが9枚まとめて守備を固めてきたら、なかなか攻め手がないということで、サイドを使ったりいろいろ変化しながら攻撃を作り出したんですが、なかなか最期まで、自分たちの形まで至らないということがありました。

 これはまあサッカーの流れですよね。これからもいろいろなチームと対戦することになるなると思いますが、やはり最初は日本の攻撃を恐れて引いてくるチームが当然、出てきます。その中で自分たちが焦らずに、どういうふうにやっていくか、ということです。


――非常に暑い中での試合で、中国でのアジアカップに向けていい予行演習になったと思いますが、選手にとってはどれくらい利益になったと思われますか?

 このような非常に湿度の高い試合の中で、相手が引いてくる。ご指摘のとおり、アジアカップに対して非常にいいというか、参考になる試合だったと思います。天候に関しては、ワールドカップもすごく暑い中で、正午のキックオフということもあります。これはもう、サッカー選手として世界でやっていくためには絶対にあり得ることで、自分たちのパフォーマンスが落ちないように、気持ち的なもの、体力的なものも含めて必要なものです。


――前半の最初の方はディフェンスラインが下がって、後ろの方でボールを回して、あまり攻撃につながらなかったんですけれども、前半の終盤の時間帯からディフェンスラインが前に上がってだいぶ攻撃力が強くなったと思いますが、それは選手の判断なのか、それとも何か指示があったんでしょうか?

 試合の最初の方を見ていましたら、相手があまりに守ってカウンターという形が多い一方で、こちらのディフェンスラインが深い。事前の情報があまりない中で、相手のカウンターを意識し過ぎていたのかもしれませんね。実際に相手がどんな形で来るのか探るということで、多少ラインが深くなったということがありますけれども、その後相手のやり方がかなり分かってくると、自分たちで修正していきました。またハーフタイムでも、こちらからの指示もありましたが、相手がこう来るからということで、みんなで確認し合い、実践していきました。


7.13 セルビア・モンテネグロ戦後 ジーコ監督会見 1−0

非常に理想的な試合だったと思います。
 今日の試合に限っては、相手も勝たなければならない状況でしたが、こちらは攻めても守ってもまったくバランスが崩れない。しかも積極性が失われず、ポジショニングでのバランスの良さからしっかり攻められましたし、各自は何をすべきかよく分かっていました。そしていい時間帯でゴールを決め、最後まで自分たちのサッカーをしたということで、実に素晴らしい戦いぶりだったと思います。


――スロバキア戦と比べて、後方の選手が追い越すプレーが多かったが、意図的なものだったのか?

 現代サッカーにおいて、このように前を追い越していくプレーというものは、相手を混乱させるという意味でとても効果的だと思います。これは昔から練習でやってきたことです。
 今は鈴木と玉田の2トップが、互いにクロスしながらのいい形ができているのですが、しかしここにクサビを当てるだけではチャンスは生まれません。最近、欧州のチームによく見られるのですが、押し込まれた形で下がった時に、前方に大きなスペースが生まれます。そこに遠藤なり、福西なりが飛び出していけば、チャンスが生まれる。このことは試合前から分かっていたことでしたので、ハーフタイムでそうした指示を出しました。

 サイドだけでなく、中央からも飛び出すということです。スロバキア戦でも、福西が飛び出していて、後ろの玉田だったと思いますが、これをよく見ていてマイナスに折り返すとか、どのポジションでもそういうプレーの必要性を選手たちが感じてくれているということですね。ウチが波に乗れるような形ができつつある、と思います。


――アジアカップに向けての課題は?

 課題はいつでもありますし、完ぺきというものはないと思います。
 すべてのポジション、全てのプレーについてもっと精度を上げていくことが、今の自分たちの課題だと思います。
 それでも今は、チームとしての雰囲気も良くなってきていますので、この勢いを落とすべきではないと思います。どこと対戦しても、自分たちのプレーがきっちりできていれば、互角以上に戦いができるという――この数試合で培ってきたものをさらに精度を上げていくことで、また大きな自信になると思います。


7.20 オマーン戦 1−0
7.24 タイ戦 4−1
7.28 イラン戦 0−0
7.31 ヨルダン戦 1−1(PK4−3)
8.3 バーレーン戦 4−3
8.7 中国戦 3−1
 


8.18 アルゼンチン戦後 ジーコ監督会見 1−2

――今日の試合もそうだが、アジアカップでも五輪でも、日本は早い時間帯で失点している。何か共通の理由があるのか?

 A代表についてはアジアカップでも同じ状況があって、選手たちとも確認したんですが、まず試合の立ち上がりでの集中力の欠如――相手の気持ちがひとつひとつのボールの争いの中で勝っていると、2回負けるとシュートまでもっていかれてしまう。こういう状況を作り出してしまうと、アジアのレベルではひっくり返すことができても、今日のアルゼンチンのような世界の強豪相手となると――今日の前半がいい例です。最初のあの場面で失点してしまうと、どうしても浮き足立ってしまう。


――結局は気持ちの問題なのか?

 ご指摘の通りだと思います。これだけ技術的にもレベルが上がってきているわけですから、先制されても技術的には相手を上回っているわけですよ。それでもひとつの勝負どころでの球際、そこで負けてしまったり引いてしまったりすると、相手のレベルが低くてもルーズボールが相手に渡ってしまう。本当にサッカーとは怖いもので、それを直していかないと後手後手になってしまう。やっぱり気持ちの問題なのだと思います。


――(インド戦、オマーン戦に向けて)

当然、勝たなければならないということで、自分たちの重要な武器であるリスタートに磨きをかけるということ。当然、相手も勝ちに来ますし、観客も100パーセント相手のサポーターということで、相手のペースにさせないということ。相手がどういう状況で、自分たちがどういう状況の中で戦うのかということ、ゲームのシチュエーションを考えながらいろんな面で強化をしていく――やることは変わりありませんが、ひとつひとつの(プレーの)精度を上げていくということです。また、相手も勝つために前に出てくる、後ろのスペースが空く、そこにスルーパスなりリスタートなりで突いていく。そのために精度を上げていくということですね。オマーン戦についても、アウエーで事実上の決勝戦ですから、これまでやってきたことのブラッシュアップを考えています。


9.8 インド戦 4−0
10.13 オマーン戦 1−0
11.17 シンガポール戦 1−0


12.16 ドイツ戦後 ジーコ監督会見 0−3

経験というか、試合運びというか、(今日の試合では)決めるところでしっかり決められて負けたという感じでした。(中略)

 もちろん90分の中でいい時もありましたし、波もありました。ちょうど自分たちのプレーがうまく機能し始めた時にやられてしまう。これが同じレベル(の相手)であれば、これほど点差が開くことはなかったと思います。ただし、ドイツあるいはブラジル、アルゼンチンといったチームと一騎打ちになった場合、どうしてもミス絡みで失点してしまう。逆にいえば、相手は確実に(ミスを)得点に結びつけてくるという事を、もう一度(選手たちに)肌で感じさせた(試合だった)と思います。


――今日はメンバーがそろわなかったことで4バックになったが、今後は相手によって4バックを検討する可能性はあるのか?

 今のチームの仕上がり具合であれば、相手というよりも、自分たちの状態に一番適した形でのディフェンスの枚数を変える時期にきていると思います。今後も今までどおり、90分の流れの中で、4バックになったり3バックになったりすることもやっていきますが、自分たちの中でスムースに入れ替えることもできる時期にきていますし、しっかりメンバーがそろった状態であれば、どんな形でもこなしていけると思います。


――今日はホームで、フィジカルだけでなくスピードでも相手に圧倒されたが、こうした相手に対抗する策はあるのか?

 (中略)われわれのメンバーもコンディションさえよければ、確実に守り方も分かってますし、フィジカル・コンタクトが強い相手に対しても不必要なファウルをしないで対処することもできます。また、相手の攻撃的なスピードだけではなく、守備的なスピードに対抗するために、こちらは足元で早くボールを動かしながらサイドを使う。体力的にフィジカルがいいチームというのは、必ず複数のバックが中に絞ってきて、両サイドが空きますから、そこをうまく突いてければ、自分たちもそういうチームに対抗できると思います。

 むしろ今日の試合で心配だったのは、ひとつのミスでボールを取られて、そこから失点してしまうということ。フィニッシュまで持っていかれてしまう、その精神的な部分での自覚。ミスをしない、いかにミスをしないか、ということを(選手たちに)植え付けて行くことが一番の課題だと思いました。同じアジアのレベルで3点取られていたかというのは、疑問です。ただ次(本大会)に進んだ時、そうした厳しさが必要になってくる。それが一番、私が心配していることです。


ミスに始まってミスに終わる。コンディションに始まってコンディションに終わる。もちろん、この2点はサッカーを語る上では欠かせない要素でしょうし、いい時もあるし悪い時もある。でも私が心配なのは、質問をする記者の方も最初の頃は戦術的なことやフォーメーション的なことをかなり突っ込んで質問していたようですが、アルゼンチン戦以降はその類の質問が少なくなっていることです。
これはチームが順調に強化された結果、聞く意味がなくなったからなら良いのでしょうが、私が思うのはどうも記者の方々もアジアカップ以降はこの監督に戦術的な質問をしても……なことを悟ってしまったのではないかということです。何もこれはジーコ監督を馬鹿にしている意味ではなくて、結局のところ監督としての経験が少ないがゆえに、長期間にわたってチームを作っていく中で、監督としての引き出しが底をついてしまったのではないかということが不安なのです。
アジアカップを勝ち取った精神力は同じ日本人として誇りに思いますが、では優勝したあのアジアカップで戦術的な発見は何かあったかというとあまり思い浮かびません。思い浮かぶのは精神力だけです。


こうしてあらためて1年を振り返ってみると、最初にも書きましたが公式大会の結果ほど日本代表は強くなったのでしょうか。海外組と国内組の融合とか、怪我やクラブの事情でジーコ監督が考えるベストメンバーが揃わない試合の戦い方とか、チームとしての戦い方とか。
ドイツ戦の内容もかなり寒いものでしたが、この1年間を振り返ってみると、初戦のマレーシア戦やイラク戦と最後のドイツ戦を思い浮かべても、『ここがこう変わったよね』とイメージできるところがないのに驚かされます。


確かに東欧遠征やイングランド遠征、アジアカップでは良い成績が残せました。でも、これはチームがある程度の期間まとまって行動ができて、同じメンバーで練習と試合を繰り返せた期間だけチームが強かったということかもしれません。来年の最終予選では本番前に必ずそのように”合わせる時間”が取れるわけではありません。この1年間をかけて強化してきた結果が”やってみなければ分からないチーム”だったと思うと、たまらなく不安ですね。