アジアカップ 敗因と未来への希望

7月29日23時現在、テレビの向こうではアジアカップの決勝戦を行っていますが、日本代表については3位決定戦にも敗れこのような文章を書いているのが不思議な気もしますが、ある意味当然という気もします。決して負けることを希望していたわけでもないけれど、それでも日本としての今回のような取り組み方で優勝でもしてしまったら、今以上に根拠なき楽観主義が日本サッカー界に蔓延ってしまいそうで…。日本の現在の力量と今回の貧弱な準備日程を考えれば4位というのは妥当な結果に思えてなりません。


今回のアジアカップについて、マスコミは安易に3連覇と煽っていましたが、日本サッカー界の総意として本当に優勝を望んでいたのでしょうか。7月7日からアジアカップが開幕するのに、国内のJ1リーグ戦を6月30日まで開催している。日本の初戦は7月9日でしたが、アジアカップに臨むメンバーを確定してから親善試合の1つも組めない日程。それで本当に日本サッカー界(協会とJリーグ)の総意として優勝を望んでいるし期待していると言える日程と準備期間なのかどうか。


もちろん国内のリーグ戦があってこその日本代表の活動だし、昨年はワールドカップイヤーということでリーグが協会に随分譲歩したことでしょうから、今年の日本のサッカーカレンダーの中で今回のアジアカップが優先されなかった事情も想像がつきます。でも、もしアジアカップ開幕前に2試合でも準備試合を組める日程的余裕があったなら、初戦のカタール戦でのパフォーマンスがもう少し良いものになっていたかもしれません。準備期間の練習試合で課題をあぶりだし本番前に修正する。しかし、今回の日程では初戦のカタール戦が課題をあぶりだす試合となってしまいました。初戦を引き分けてもなんとかグループリーグを1位で突破することができましたが、もし充分な準備期間が取れて初戦から高いフィジカルコンディションとチーム状況でグループリーグを2連勝で乗り切ることができたなら、3試合目で選手を休ませつつ新たな選手を試すことができたかもしれませんが、初戦の引き分けによって3試合目も全力で臨まなければならなくなってしまったこと。これが決勝トーナメントで試合をこなせばこなすほどジャブのように効いてきたように思えてなりません。タラレバの話ですから2連勝したからといってオシム監督が3戦目でメンバーを代えたかどうかは分かりませんが、それでも準備期間の圧倒的不足は否めません。初戦までの1週間ではチーム作りよりも直前までリーグ戦を戦っていた選手たちの回復がメインテーマになってしまったことでしょう。


そしてそのような貧弱な大会への準備状況の中で、オシム監督が重視したものは内容だったのか結果だったのか。
もちろんアジアの中ではワールドカップに次ぐ重要な大会ですから、オシム監督が本気でアジアカップを獲りにいっていることは疑いの余地はありません。でも、100%の力でアジアカップの優勝だけを目標としていたのかどうか。アジアカップの優勝が70%で、ワールドカップに向けてのチーム作りが30%ぐらいの比率でオシム監督が考えていたのではないかと言う憶測も捨て切れません。ドイツワールドカップを経験しているベテランが半分と、アテネ世代で力はあってもチャンスがなかった選手が半分。そのようなメンバーをほぼ固定して戦った今回のアジアカップでしたが、新たな選手を試す場としてのチーム作りではなく、古井戸の選手たちをこのまま残すかどうかの見極めの場だったのではないか。


昨年のチーム発足以降、新たな選手に経験を積ませつつ、ドイツを経験している選手を融合させていく。本当ならば前の日本代表を引き継ぎつつ新たな選手を発掘していくはずの最初の1年間を、前の日本代表が若手にチャンスを与えなかったゆえに若手にチャンスを与えながらベテランを融合させていく1年間として使い、その段階の総仕上げだったのではないか。そんな思いも捨て切れません。8月22日のカメルーン戦は別にしても、9月初旬の欧州遠征では大幅にメンバーが入れ替わりチーム作りの第二段階に入るのではないかとも想像します。チームの方向性もわかった。ボールや人を動かす基礎もできた。あとはその美しいサッカーを勝てるサッカーにしていくための次のステージ。欧州遠征からオシム監督のチーム作りの第二段階が始まるのではないか。そういう意味でも9月の遠征メンバーは注目です。


ちょうど今、イラクアジアカップ優勝が決まりました。日本にとってアジアカップが貧弱な準備期間でも獲れるタイトルではないということを再確認した(してしまった)今回のアジアカップでしたが、現在のアジア情勢を考えるとイラクの優勝と言うのは感慨深いものがあります。イラクがどのような準備をすることができたのかは分かりませんが、現在のイラクが置かれている政治的状況を考えれば、イラクサッカー界にとってアジアカップの優勝というのは明日への希望以上の大きな存在なのだろうと思います。今回のアジアカップを迎えるにあたり、日本サッカー界はどれほどアジアカップのタイトルを渇望していたのか。まったくの想像ですが、現在のイラクを上回るということはないだろうと思ってしまいます。たぶんサウジアラビアすら上回れないでしょう。前回の中国大会では反日感情のおかげで日本代表のモチベーションがより高くなったことと思いますが、今回の大会ではどれくらいのモチベーションがあったのか。


またオシム監督にとっても今回の大会はどのような位置づけだったのか。結果を出すための選手起用だったのか、それともチーム作りを見据えての選手起用だったのか。マンマークで2トップには3バックというリアリストの守り方をせず、2トップに4バック(実質2バック)で守ってみたり、マンマークではなくゾーンで守っていた意図はどこにあるのか。人もボールも動くサッカーからボールだけを動かすサッカーに変容したのは暑さ対策なのか、それとも意図しない変容だったのか。シュートよりもボール回しを優先させているように見えてしまう相手ゴール前での出来事は意図したものだったのかどうか。あれほどまでにスタメンを固定した理由は何なのか。オシム監督としては結果と内容のバランス、準備期間と現実の試合とのバランス、そして理想と現実のバランスを最大限重視した今回の選手起用だったと思いますが、それらのどちらによりバランスを振った大会だったのか。その答えが分かるのはこれからの日本代表の姿がどうなるかということなのでしょう。


早く次の試合が見たい。早く欧州遠征の試合が見たい。スカッと勝つ日本代表が見たい。