僕をオートバイと旅の世界に引き込んだ3冊の本

もともと本を読むのが好きだった少年でしたが、そんな僕を強烈に旅とオートバイの世界に引き込んだ本が3冊あります。


長距離ライダーの憂鬱 片岡義男(著)  角川文庫
とにかく本の内容よりも書き出しの描写が強烈でした。

いつからだろうか、と美雪は思った。
気がついたときには、すでにこのタンク車が、自分の前にいた。
(中略)
塗装をしていない、ステインレス・スティールのタンク車だ。そのすぐうしろに、美雪はいた。
タンクの後部は、横に倒した楕円形だ。中央の部分が、凸レンズのようにふくらんでいた。
鏡のように磨いてある、その横位置の楕円のなかに、オートバイで走る自分が写っているのを、美雪は見ていた。

なぜだか分かりませんが、当時の僕はこの書き出しにガーンと衝撃を受けたのです。とにかくこの本の描写のように自分もオートバイで走ってみたいと。
それ以降、自分の前にタンク車が来るたびにこの場面を思い出していました。もちろん、写っているオートバイに乗った自分の姿は必ず見ていましたよ。この本以外にも片岡義男さんの本はたくさん(ほとんど)持っていますが、オートバイを僕に強烈に意識させたのはこの本です。


チャンピオン・ライダー 泉優二(著)  角川文庫
この本では憧れよりもオートバイの怖さが印象的でした。グランプリライダーのストーリーですから、一般のライダーに当てはまる話ではないかもしれませんが、事故の恐怖、その恐怖を克服して走るということ、そして衝撃のラストシーン。
泉優二さんのグランプリライダーの小説はこの前後にも何冊かありますが、僕はなぜかこれから読み始めました。ヨーロッパに対する憧れもこのころからでしたね。


振り返れば地平線 佐々木譲(著)  集英社文庫
そして、僕のオートバイ乗りとしての方向性を決定付けたのがこの本でした。オートバイでそれもオフロード車で北海道に行きたい。開陽台からの地平線が見たい。本の中のストーリーはたったの6日間ですが、この本が後の僕の人生に与えた影響は計り知れません。実際に自分で走って行ったときは他の様々な場所も走りましたが、未だに僕にとっては北海道は特別な場所だし、その中でも中標津、特に開陽台は別格です。ただ、ちょっとひねくれものなので、小説のクライマックスのように開陽台でキャンプをしたことはないんですけど。

(アヒルの言葉)
俺は挨拶をすませると、連中に訊いた。
妙なところで酒を飲んでいるんだね。何か面白いことでもあるのかい? って。
酒盛りをやっていた連中は愉快そうに笑い、そして俺にいった。
後ろを見てみなよ。あれを肴に飲んでいるんだ。
俺は振り返った。と、東の空に満月が浮かんでいるんだ。大きな、明るいフルムーンだ。
満月の下に、根釧原野がひろがっていた。ただただ広大な、黒々とした大地だ。百八十度、遮るものひとつない大平原だ。小さな灯りが、空の星よりも数倍希薄な密度で散らばっていた。農家の灯りだ。ひとつひとつ数え挙げることができるほどの数しかない。どの灯りも消え入りそうに弱々しく、頼りなげだった。
それに引きかえ、満月の星の輝かしいこと、明るいことときたら!

この描写にやられてしまいました。この風景が見たい。僕もオートバイでそこに立ってみたいと。
この本が直接の影響ではありませんが、学校を卒業して3年間働いた僕は会社をやめて、オートバイで日本一周の旅に出ました。もちろん自慢するようなことでも、特別な話でもなく、どこにでも転がっているような話ですが、でもこの本はそれ位僕の人生に影響を持っていたのです。


15年以上も前の話、まだ昭和だったころかもしれません。でも、この3冊は僕の人生を少しだけ変えた3冊です。