終戦のローレライ

ようやく読了しました。久しぶりに読み応えのある本でした。
文庫本の1冊目、終戦のローレライ(1) (講談社文庫)では、少し入り込みにくい作品の導入部分でしたが、主人公たちが潜水艦に乗り込んでからは本を置くのが難しいくらいのスピード感でした。
作品の内容については読んでいただかないと伝わらないと思いますが、本当に心に響く”人間ドラマ”でした。この本のジャンルは”戦争もの”や”ミステリー”に分けられるのかもしれませんが、この作品は”歴史戦争もの”に名を借りた限りなく泥臭い”人間ドラマ”なのだろうと思います。
自分の属する集団に無条件で従っていいものなのか、自分の頭で考え決めることがどれほど大切なものなのか、そして属する集団を持たないことの孤独感、集団に属するということはどこに生まれたかということではなくて心のつながりなのではないかという問題提起。
祖国とか故郷とか、普段は意識しない言葉を強く考えさせる作品でした。


本の素晴らしさとは別にかなり不安なのが映画ローレライなのですが、キャストを見るとフリッツ少尉の名前がないのですよね。この『終戦のローレライ』の作品の奥行きを出しているのはフリッツ少尉の存在だと思うんですがね。ふたつの国の狭間でどちらにも属していない孤独感や兄弟愛、そして田口をはじめとする伊507乗員との心のつながりの芽生え。そういう感情が一切表現されないということは、原作本の魅力の半分も表現できないのではないかと思います。上映時間に限りのある映画とはいえ、もったいないですね。映画『ローレライ』を見た方の感想はいかがなのでしょうか。


集団の考えに付和雷同するばかりではなく、自分で物事の善悪を考え、行動する。日本人にとって、もしかすると一番苦手で一番欠けている部分なのかもしれません。幼い頃から”集団には従え”とか”和を乱すな”ということが美徳だと言われている国において少数意見は時として押しつぶされてしまいがちです。自分の顔が表に出ないように集団の中で行動するばかりではなく、間違っていると思う時にははっきりそれを主張できる強い心は大切ですよね。