代表とクラブの綱引き

前日のコメント欄にて TpM さんからこのような問いかけをいただきました。

ガンバ所属選手のエクアドル戦メンバー選出ですが、これ、ことはガンバだけの問題ではないと思います。
“Jリーグ”の公平性、ひいては権威を傷つける大問題だと思うのですが、(中略)そう思いませんか?

確かに、問題ではあると思うのですが、解決するには難しい問題だと思っています。以下はあくまで個人的意見とJ開幕当時からの流れを振り返りながら、少し考えて見たいと思います。


1993年のJ開幕の年に、日本代表としてはアメリカワールドカップ出場をかけた予選を戦っていました。当時のJリーグは参加10クラブでリーグ戦とカップ戦を行っていました。そして運命の最終予選ですが、ワールドカップに出場したことのない日本にとっては、Jリーグの開幕は日本代表の強化の観点からも必要な措置であり、日本代表の活躍はJリーグの集客力や話題性の向上のために必要なものだったと思います。結果としては『ドーハの悲劇』などがあって出場を逃してしまいましたが、ここからの数年間は、『リーグの利益は代表の利益、代表の利益はリーグの利益』というある意味では非常に珍しいリーグ(=クラブ)と代表の蜜月関係という特殊な時期だったと思っています。


本来、選手というものはクラブが雇っているものであって、当然年俸を払っているクラブに優先使用権がある。それが分かっているからこそFIFAも『代表チームが年間○試合までは拘束できる』と代表側の権利を謳っているのだと思います。本来の権利を持つクラブ側の権利はそのようなルールに謳う必要などないほど明確ですからね。
そのように1人の選手をめぐるクラブと代表の三角関係というのは、あって当然なのだろうと思います。むしろそうあるべきというか、クラブにとって必要じゃない選手など雇っていないわけで、全ての選手の代表召集に抵抗感があって当たり前なのだろうと思います。代表に招集されて大きな怪我をして帰ってくる選手がいたときに、それ以降の契約期間について試合に使えなくてもその選手の年俸をクラブが払わなければいけない理不尽さを考えれば、すんなり送り込むことの方がおかしい。


1993〜1997年当時の日本サッカー界にとっては、ワールドカップ出場は悲願でもあったし2002年の自国開催を控えた時期において使命でもあった。そしてリーグやクラブの思惑としても、リーグ開幕以後の将来性が不透明な数年間においては、自クラブの選手が代表に招集され、活躍し、知名度があがり、ひいてはその選手がクラブに帰ってきて注目度も上がり集客にも反映される、そのようなサイクルは好ましいものだったことでしょう。しかし、それはやはり日本サッカーにおけるプロリーグ開幕直後の特殊事情であって、1998年のフランスワールドカップ初出場から2002年の自国開催を経て、リーグ(=クラブ)と代表の関係も変わってきた。リーグも開幕後10年が経過し、代表の人気に頼る時代は終わりを告げました。敵対関係とは言わないけれど、少なくとも蜜月関係の時期は終わった。


そのようなクラブと代表の関係の変化と時を同じくして、リーグに参加するクラブも増え、それに伴い試合数も増加。また日本代表もアジアの中では順調に強豪国に成長し、アジアカップの優勝によりコンフェデなどの世界大会に出場する機会も多くなりました。さらに世代別の日本代表チームも順調に活動しているので、リーグ(=クラブ)と代表の選手の綱引きの関係は強くなるばかりというのが現状なのだろうと思います。


と、ここまでが長い前提で。
今回のG大阪の3人の選手の招集が問題になるとしたら、他のチームがリーグ戦は代表選手も含めたフルメンバーで戦っているのに、G大阪だけが代表選手が拘束されるというところでしょうか。しかし、他の代表選手を出している各Jクラブもこの日程でナビスコカップという賞金のかかった公式戦を戦っているので、G大阪だけが不運とも言いにくいし、今回の日程だけについて言えば代表選手を多く出しているクラブが不利で出していないクラブが有利とは言いにくい。言ってしまった瞬間に日程が問題だと認めることになってしまう。磐田も、浦和も、鹿島も、広島も代表選手抜きにしてナビスコを戦うわけですし。頭ではリーグ戦の優先順位はナビスコより高いとは思いますが、はっきりとそう口に出すわけにもいかない問題です。


また今回のG大阪の日程はACLとの兼ね合いで1試合だけ1週間ずれていますが、それに伴って代表選手が使えなくなったのと同時に、あくまで仮定の話ですが1週間前には怪我で出場できなかった選手がこの1週間で戻ってきて試合に出られるようになる可能性もあるかもしれない。
また、そのクラブの資金力などによる選手層の厚さの問題もあります。レギュラークラスを3人引き抜かれても選手層の厚さからある程度補えるクラブと、たった一人引き抜かれても補充が難しい中堅クラブでは状況が違うでしょう。


これらの有利不利の不公平感を是正するためには、Jリーグとサッカー協会とAFCとFIFAが全て満足できるようなカレンダーを組まなくてはならない。しかし、それは現実的には無理な話だと思うのでどこが我慢するか、という話ですよね。特に今年に関してはワールドカップイヤーなのでリーグ(=クラブ)が代表に譲歩するのはやむを得ないもかな、と思っています。ただし、本大会の年ではない3年間は、できるだけ代表がリーグ(=クラブ)に譲歩するべきなのだろうと思います。そのようなことを基本として、年々過酷になっていくサッカーカレンダーの国内版を作っていくしかないのかな、と思います。今現在はJ2から日本代表に選ばれている選手はいませんが、可能性としてはあるわけです。それでもJ2はワールドカップ期間中もリーグ戦をこなしていく。またW杯以降には北京オリンピックに向けたU23代表も本格的に活動していくと思うのですが、こちらはオリンピック期間中でもリーグは中断しないかもしれない。でも、クラブによってはU23の選手が中心になるチームもあるでしょう。


クラブと代表の選手の綱引きの中で、強豪クラブが優勝争いから外れていくことよりも、残留降格のボーダーラインにいるクラブが降格してしまったときの方が、経済的精神的ダメージはきっと大きいのでしょう。特に豊富な資金力で有名な選手を買えるビッグクラブではなく、限られた資金の中で若い選手を育てながら使っている中位以下のチームにとって、U23の選手を取られたままリーグ戦が行われるのは死活問題になりかねませんが、結局のところその不条理も含めてサッカーなのかなと思ってしまいます。
結局のところ何ら解決策は示せないまま、各クラブは自チームの選手を代表に出すメリットとデメリットを秤にかけつつ、またその試合が日本代表にとってどの程度の重さを持つのかを考慮しつつ、やりくりしていくしかないのが現状なのだろうと思います。結論という結論は出ていないですが、今回の召集は微妙な問題だと思いつつも、現代の過酷なサッカーカレンダーの中でその場その場で優先順位をつけていくしかないのかなというのが私の思いなのですが、皆様はどう思いますでしょうか。

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