日本一周 北海道上陸編

30時間乗ったフェリーが苫小牧港に着いた。

日本一周なのに、いきなりフェリーで北海道だ。自宅から直接旅をスタートさせても良かったのだが、北海道から走り出すと決めていた。これまでも日本の各地を旅していたので、北海道の道の気持ち良さが日本離れしているのも知っていたし、なにより夏の暑い盛りに南から走り出すこともない。空気の温度を直接肌で感じるバイクだから、気持ちの良い気候の中で走りたい。


苫小牧に上陸して走り出す。最初の目的地は富良野だ。正確には富良野と言うより、十勝岳の中腹の白金温泉のキャンプ場だ。正式名将はキャンプ場ではなく国設白金野営場だが。苫小牧港からなら150キロくらいだろう。

バイクで旅をする時に、一般道なら一日300キロぐらいは普通に走れる。無理すれば500キロでも走れる。でも一日の走行距離が300キロを越えると、それは旅ではなくて移動になってしまう。A地点からB地点に進むことが目的で、途中の場所は単なる通過地点だ。
しかし、今回の旅では日常とは違った使い切れないほどの時間がある。立ち寄る場所の全てが目的地だし、走ること自体も移動ではなく旅として楽しみたいので、一日の走行距離は200キロを目安にしようと決めていた。

それでも、早朝に苫小牧港に上陸して海沿いの国道を門別まで南下、そこから内陸に入る富良野までの道には立ち寄るところがほとんどない。ましてや朝早くから走り始めているので、白金には午前中に着いてしまった。まあ、会社生活の日常から日本一周という非日常に頭と体を切り替えるのだから、初めから無理をする必要もない。


今回の旅ではキャンプを中心に移動するつもりで、キャンプ場の雰囲気が気に入ったら連泊をしようと思っていた。所帯道具一式をバイクに積んで走っているので荷物も多い。キャンプ場で荷解きをして、テントを張って所帯道具を下ろしてから身軽になって周辺を走ろうと思っていた。このキャンプ場は近くに温泉もあるので、初めから連泊のつもりだった。


富良野市街地を観光したり、十勝岳周辺を走り回った。日程の決った旅ではないので、有名な観光地だけではなく、気になった道があったら何も考えずに曲がって走ってみた。行き止まりなら向きを換えて戻ればいいし、未舗装路になったってオフロードバイクだから多少は安心だ。とにかく気の向くまま走った。

夕方4時ごろにはキャンプ場に戻り、まずは一日の疲れを癒し汚れを落とすために温泉に入った。旅館やホテルに泊まるわけではないので、近くに入浴施設があるというのは、キャンプ場選びのポイントになった。少し離れていたらバイクで向かえばいいのだが、夕暮れ時のそぞろ歩き程度の距離に風呂があるなら、その方が嬉しい。もちろん風呂上がりにはビール片手の散歩になるのは言うまでもない。


風呂から帰ってくると料理の時間だ。料理といってもたいした物を作るわけではない。もともとグルメを気取るタイプでもなかったし、その土地のうまいものや名産は昼飯で食べればいいと思っていた。飯ごうで米を炊く。炊き上がりを待つ間はもちろんビールで夕涼みだ。米が炊き上がったら、蒸らしている間にお湯を沸かす。沸いたお湯の一部でインスタント味噌汁を作り、残りのお湯でレトルト食品を温める。缶詰を1つ開けたら夕食の出来上がりだ。


レトルトは、カレー、ハヤシ、中華丼の繰り返しだ。時々は違う物も食べたくなるだろうが、飽きるまではこれでいこうと思っていた。レトルト食品の味だから絶品であるわけはないが、外れもない。それでなくても、炊き立ての米はそれだけでも旨いものだ。
食事が終わるとレトルトを暖めたお湯を食器に注いで、汚れを浮かす。面倒くさくなる前に洗い物だ。朝まで放置すると落ちにくくなるし、何より野生動物に狙われてしまう。観光客にとってはキタキツネは可愛いい動物だろうが、キャンパーにとっては荷物を食い荒らす天敵だ。以前には皮製のラインディングパンツを食われて穴が開いたこともある。いくら北海道だからといってキャンプ場に熊は来ないだろうが、キタキツネやカラスに荒らされないためには匂いの出る食品はそのままにはできないのだ。


夜8時にはテントに入り、シュラフに身をくるみながらラジオを聞く。退屈しのぎという事もあるが、明日の天気も聞かなければならない。普段の生活なら明日の天気はテレビでも新聞ででもすぐに分かるが、キャンプをしているとラジオしか情報源がない。天気ばかりは聞いても変えることはできないが、せめて心の準備はしておきたい。台風も怖いしね。