日本一周 離島編2

礼文島を離れ、フェリーで利尻島に渡る。30分くらいの船旅だが、礼文島に渡る時とは違って今日の海は穏やかだ。礼文島ではすっかり民宿に泊まってしまったので、また今日からテント泊だ。フェリーの港から程近い鴛泊北麓キャンプ場に荷物を降ろしテントを設営して、身軽になって島を一周した。バイクで10分くらいの海沿いには温泉入浴施設もあるし、北海道はどこに行っても温泉がある。


キャンプ場を迷わず鴛泊北麓キャンプ場に決めたのは理由がある。ここは利尻山登山道の入口にあたっているからだ。利尻島に渡ってきた一番の理由は、標高1,719mの利尻登山に挑戦するためだ。もともと登山の経験もないし、歩くことが好きなわけでもないが、この山には絶対に登ろうと思っていた。関東に住んでいるから富士山ならいつでも登ることができるけれど、北の離島の山に登るチャンスなんて一生に1回あるかないかだろう。登山だから天気が安定していなければ登ることもできないわけだが、幸いにも今は時間があるので天気待ちをする時間的余裕もある。とにかく、登るつもりだった。


翌朝、少し靄がかかっていたがラジオから流れる天気予報は天候が良くなる見込みだったので、7時頃キャンプサイトを出発した。バイクに乗る時に背負っているミレーのリュックサックに水とパンとタオルと救急道具を詰め込んで出発だ。登山道を登り始めてすぐに、甘露泉水という湧き水があることは知っていたので、空のペットボトルも持って行き、水の補給もした。ここで飲んだ湧き水の旨さは忘れられない。


登山道は最初は森林の中を単調に登っていく。見通しも悪く、どれくらい登っているのか見当もつかない道だが、しばらく歩くと見晴台のような眺望の良いところに出たので休憩をする。登山の経験は少ないが、なぜか富士山には3年連続で登っていた。その時の経験から、登るスピードは遅くても良いから、自分のペースで一定の速さで、頻繁に立ち止まるのではなくてある程度歩いてから休憩して、またある程度歩いてから休憩する。そんなリズムというかサイクルを心がけながら登った。もっとも、他に登る人がほとんどいなかったので、自分のペースを崩される心配はなかったのだが。


何合目からか忘れたが、少し前に振った雨の影響で粘土質の土が滑りやすい部分には参った。こちらはツーリングの真っ最中なので、登山靴を持っているわけではない。バイクに乗る時はラインディングブーツを履いているが、キャンプサイトや街を歩く為のスニーカーを持っているだけだ。このスニーカーが濡れた粘土質の部分で滑って滑ってしょうがなかったので、手をついて登った。
しかし、この粘土質の部分を抜けると、山頂はもうすぐだった。


一番苦しいところを抜けてからは、言葉にすると陳腐だが地上の楽園のようだった。青い空に緑の地面。山の途中から森林限界を超えているので、山頂付近に木は生えていない。笹のようなコケのような緑の草が一面に生い茂り、足元には高山植物の可憐な花が満開だ。礼文島では高山植物の花の時期は終わりを告げていたが、この利尻山頂付近では標高の関係で、満開だ。
信じられるかい、頭上には青い空、足元には緑の大地、そこには高山植物の花が満開で、眼下には360度の海が広がる。礼文島や北海道だけではなく、遠くには日本ではない樺太かサハリンの陸地も見える。海に浮かぶ単独峰という特異な条件とそれがある北の土地。そして、山頂の広さは8畳間くらいだからこそ可能になる360度の視界。本当に楽園だと思った。
登るのはきつかったし、6時間もかかったけれど、来て良かった。富士山頂は3,776mあるかもしれないけれど、途中まで車で登ってから登山開始だ。しかし、この利尻山は海抜0mからのその標高のほとんどすべてを自分の足で登る1,719mだ。この感動が分かるかい。
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いつまでも感動に浸っていたいが、登ったからには降りなければいけない。登るのに6時間かかった道を3時間で降りた。キャンプ場が登山道の入口にあるから、楽だ。すぐにバイクに乗って温泉に向かう。入浴して疲れを癒し、缶ビールを買って、ミレーのリュックに放り込んでキャンプ場に戻る。飯が炊けるまでの間、椅子に座り夕陽を見ながら缶ビールのプルトップを開ける。至福の瞬間だ。
礼文島ではハイキングコースを歩いて、利尻島では登山だ。最近ほとんどバイクに乗っていないが、まあいいだろう。北の島にこんなにゆっくり滞在できるチャンスは、人生でそうはないのだから。