日本一周 道東編

尾岱沼を出発し、さらにオホーツク海沿いを南下する。風蓮湖の横を通り、厚床で国道44号線に突き当たる。この厚床の駅には思い出がある。学生の頃、仲間と4人で北海道を旅していたときに、用事があって先に帰る仲間とこの交差点で別れたからだ。帰る奴は右に曲がり釧路へ向かいフェリーに乗る。旅を続ける奴は左に曲がり根室方面へ。地元に帰ればまたすぐ会えるのだが、旅の途中での別れは切なかったのを覚えている。今回はそんな別れはないが、厚床の駅前の交差点を通ると、その日のことを思い出してしまう。今日はあえて国道44号線を外して、太平洋側の道を選び落石岬に向かう。何もなかった。


根室市街地を抜け、納沙布岬へ。日本最東端の岬だが、北端から3番目のノシャップ岬ほどの寂れた感じはない。ちょっと高台にあるもの雰囲気が違う原因だろう。すぐに根室に戻り、帰りは国道44号線を厚床に戻る。そういえば、今まで付いたり離れたりしながら南下してきたオホーツク海とも別れを告げ、太平洋を見たことになる。
厚床から別海町を目指すが展望台のようなものが見えたので、つい農道のような道を曲がってしまった。どこでも曲がれるところがバイクの機動性のなせる業だ。適当に農道を走りつなぎつつ、別海町を通り中標津に向かう。中標津にはツーリングライダーの聖地である開陽台があるが、8月のこの時期は人が多いのは想像がつくのであえてスルーして、中標津から国道272号線で釧路を目指す。中標津に向かっている時は開陽台に行くつもりだったが、走っているうちに気が変わってしまった。それもいいだろう。気ままな旅だ。


中標津と釧路を結ぶ国道272号線は快適な道だ。特に国道243号線との交差点を過ぎてからの道は、別世界だ。左右が自衛隊の演習地で土地が開発されずに自然のアップダウンがそのまま残っていることが大きな理由だろうが、大きな左右のうねりとアップダウンを繰り返しながら、釧路へと向かっていく。大きなコーナーをクリアするときに曲がるのではなく、ギアを1つ落としながら体とバイクを傾けるだけでコーナーに入っていき、立ち上がるときはアクセルを開けるだけで傾いた車体が戻ってくる。人馬一体ならぬ人車一体感を感じられる道だ。


釧路市街地に入る前に再び国道44号線に合流するが、釧路の街には寄らずにそのまま国道391号線で釧路湿原に向かう。今日は釧路湿原の北端にあるシラルトロ湖でキャンプするつもりだ。釧路湿原のまわりにはいくつか沼や湖があるが、シラルトロ湖には温泉があるというのは大きな決め手だ。キャンプサイトは湖畔にあり目前には湖が広がり、少し坂を登れば温泉がある。これはかなり最高のロケーションだ。
翌日は小雨だったのでバイクに乗るのはやめてすぐ近くの塘路駅から釧網本線に乗り、車窓から釧路湿原を眺めた。釧路の街に行っても何もすることはなかったが、釧路駅近くの和商市場を歩いた。和商市場は、市場内の店でご飯を買って、市場の中を歩きながらそれぞれの店で上に乗せる海産物を買って、自分なりのオリジナル丼を作れる市場として有名になってしまったが、実は入口横の竹寿司が一番旨いと思う。たまには列車もいいものだ。バイクに乗っているときは、景色を見るとどうしてもガードレールや電柱も視界に入ってしまうが、列車の車窓からは景色を邪魔する余計なものはない。キャンプ場から塘路駅までの道は国道から少し離れているが、横の山にエゾ鹿の親子がいた。


次の日は晴れたので、バイクで釧路湿原周辺を走り回った。細岡展望台(大観望)に登ったり、湿原内のダートを走ったり、反対側の釧路市湿原展望台から湿原を眺めたり、とにかく釧路湿原周辺で一日過ごした。丹頂鶴は見ることができなかったが、釧路湿原を堪能した。
雨の日もあったが、シラルトロ湖で3泊もしてしまった。キャンプ場としてのロケーションは最高だったが、ただ1つ蜘蛛が多いのには困った。大きなものから小さなものまで、たくさんの蜘蛛がいた。それだけ自然に近い、管理された芝生のキャンプ場ではないことの証明だったが、朝ラインディングブーツを履く時に、中に何かいないかと確かめるのが習慣になってしまった。
そろそろ次の場所に旅立とう。