DAY 0

仕事を定時で切り上げ、京浜東北線羽田空港に向かう。明日からフランスに行くが浮かれた気分ではない、複雑な気分だ。


日本がフランスワールドカップに出場できることが決って、絶対に見に行こうと強く決心していた。アジア予選は一次予選から日本ホームの試合は全てスタジアムで応援していた。最終予選に入り、カズと城の祈るようなキックオフで始まった大乱戦のウズベキスタン戦。どうしても休めない日だったのに、『風邪を引いた』と嘘をついて国立に向かい、山口のループシュートを見て歓喜の雄叫びを上げたにもかかわらず悪夢の逆転負けを喫した韓国戦(次の日に、風邪なのに日焼けしてるねと突っ込まれたっけ…)。最後までモヤモヤした気持ちが消えることがなかった何故かロスタイムがなかったUAE戦。そして、国立全体が異様な雰囲気で後押ししたカザフスタン戦。


これらの試合をすべてスタジアムで見たのに、初出場が決った瞬間のジョホールバルにいることができなかった失望感、もちろんテレビの前で祈るような気持ちで試合を見て、岡野のVゴールで深夜に歓喜の雄叫びを上げたけれど、それでも現地にいなかったことを本当に後悔していた。行く気があれば行けるチャンスはあったのに、自分が選択をして行かなかった。そのことを深く後悔していたので、日本がワールドカップ初出場となるフランス大会の日本の初戦であるアルゼンチン戦はどんなことになろうと、休みが取れなければ会社を辞めてでも現地で見ようと固く心に誓っていたので、年が明けてから発売された観戦ツアーには発売と同時に申し込んでいた。ただ、そんなに簡単にツアーに申し込めないだろうと覚悟していたにもかかわらず、思ったよりあっさりと申し込めたのは意外だった。あとで騒動が起こるまでは…


そう、6月10日に急に騒がれ始めたチケット問題に巻き込まれて、試合のチケットがないままにフランスに旅立つことになっている。1月に観戦ツアーに申し込んでからずっと、この騒ぎが起こる前から『ツアーの数が多すぎるんじゃないか』とは、思っていた。グループリーグはフランス各地の地方都市を使って行われる試合が多く、3万人クラスのスタジアムで開催される日本の試合にこんなにツアーが催行されて、1出場国である日本にそんなにチケットが割り当てられるのだろうかと言う不安は持っていた。予算の関係で日本サッカー協会公認の旅行会社ではなく、日本旅行のツアーに申し込んでいた。関西空港からフランスではなくオランダに飛び、現地での宿泊もパリを避け地方都市に泊まるということでツアー代金が他より少し安かったからだ。フランスに行くのは初めてだけど、もしかしたらパリには再び行く機会があるかもしれないが、地方都市に滞在する機会などないだろうと思う気持ちがあったのも事実だ。まあ、値段の問題は大きかったけれど。


しかし、協会公認のツアーでなかったおかげで、まんまとチケット騒動に巻き込まれてしまった。協会公認のツアー会社は各国サッカー協会割り当て分のチケットがまわされて既にきちんと人数分が確保されているようだが、それ以外の旅行会社のチケットの確保見込みが甘かったということだろうか。出発直前の2,3日は暗い気持ちで仕事をしていて、そこにツアー会社から事情の説明の電話が入って、チケットがなくても行くか行かないかの意思確認をされた。しかし、何の迷いもなく行くと返事をした。例えどんな情況だって、現地に行かないと何も始まらない。もし現地に行ってスタジアムに入れなかったとしても、それはそれで強烈な思い出だ(強烈すぎるけれど…)。


とまあそんなわけで、羽田空港に向かう気分も複雑だ。夜8時くらいの飛行機で関西空港に飛び、橋を渡った市街地にあるビジネスホテルで1泊した。大浴場(といっても小さいが)のあるビジネスホテルで、風呂がとても熱かったのを覚えている。言い方を変えればチケット問題で頭がいっぱいで、それ以外のことを良く覚えていない。