DAY 8

今日はクロアチア戦だ。3日間滞在したトゥールの街を離れ、バスでナントへ約200km移動する。フランスに滞在しているがゆえに、逆に日本代表に関する情報は入ってこない日々だったので、今日のスタメンがどのようになるのかすら分からないが、今までの選手起用を考えると冒険的なスタメンはありえないだろう。当然この試合のチケットも持っていないが、14日のアルゼンチン戦のチケット争奪戦を経験しているので、チケット確保に関する不安は少なくなっていた。対戦相手が強豪であるアルゼンチン相手の試合よりも、初出場のクロアチア相手の試合の方が手に入れやすいということは想像がついたし、やはり14日を乗り切った自信は大きい。


ナントの街に着いて、真っ直ぐにワールドカップイベント広場のような公園に行く。ツアー全体がアルゼンチン戦の教訓を生かして、どこにチケットが集まるのかを学んでいた。日本人の姿の少ない公園の中に散らばると、すでに日本人サポーターを当て込んだチケットを売りたい現地の人が何人も歩いていた。バスの中で聞いたのだが、アルゼンチン戦のチケットを高額で買った日本人の話はずいぶんフランスでも話題になっていて、ナントでも商売したい現地の人がかなりいるらしい。公園の入り口にバスを横付けして三々五々散っていったが、1時間もしないうちに全員がチケットを確保して戻ってきた。トゥールーズでの苦しみは何だったんだ。


またバスで移動して試合会場に向かうが、バスの運転手が地元の人間ではないせいや、ワールドカップの試合が開催されるために交通規制がひかれているせいで、到着に思った以上に時間がかかったがまったく気にならなかった。試合開始のかなり前からチケットを確保していると、こうも心に余裕があるものか。まあ、普通はそうなんだけど。
アルゼンチン戦を戦ったトゥールーズと違って、この日のナントはとても暑かった。試合の間に観光をしている時も、長袖のフリースが必要な日もあれば、Tシャツでも暑い日があるなど、気候は一定していなかったが、よりによって日本代表の試合がある日がこんなに暑い日になるとは思わなかった。6月というのに真夏のようで、サングラスがなければまぶしくて目も開けていられないような日だった。


駐車スペースでバスを降りて、スタジアムへ向かう。交通規制された広い道を、大勢の日本人サポーターが歩いていた。道路が青く染まるぐらいに、日本人の数が多かった。まるで日本のホームで開催されている試合のように。
セキュリティチェックを抜け、何気なく前を歩いている2人連れを見ると、J-WAVEでお馴染みのジョン・カビラさんとフジテレビの青島アナウンサーだった。でもその歩き方のリラックス加減はこれから仕事に行くというよりは、まるで日本代表を応援に行くサポーターのようだった。
スタジアムに入る前に、広場にある売店を覗いてみる。こんなに色々グッズがあったことを初めて知る。だってアルゼンチン戦のときはチケットが手に入ったのがギリギリの時間で、スタジアムに入ることしか考えてなかったから、まわりを見る余裕なんてなかったから。


スタンドに入ると席はやはりコーナーフラッグの上のほうだった。ちょうど屋根の下に入ったので暑さは和らいだが、ピッチ上は相当暑そうだった。試合についてはよく憶えていない。ただ、中田から中山にパスが通った時は、『貰った!!』と思ったんだけどな。このシュートを中山の背中越しに見る席だった。
残念ながら試合には負けてしまった。


試合が終わってスタジアムを後にして、バス乗り場までの広い道を歩いていく。行きもそう思ったが、道を埋め尽くす人々が皆青いユニを着ているので、まるでこの道路だけ日本になったようだ。
バスの止めてある近くまで帰ったが、時間に余裕があったので近くの店の外のテーブルでビールを1杯飲んだ。本当は日本の初勝利に祝杯を上げたかったが、2連敗でグループリーグ敗退が決って残念会になってしまう。でも、正直な気持ちで言えば日本が負けて残念な気持ちよりも、2試合ともスタジアムで見ることができてホッとした気持ちの方が強かった。店を出てバスに向かおうとすると、裏の駐車場にTBSの進藤晶子アナウンサーがいた。


バスに乗り込んで今日の宿泊先であるパリまで約300kmを移動する。トゥールーズでの試合後、ボルドーに向かう途中のサービスエリアにはほとんど日本人がいなかったが、さすがにナントからパリに向かう高速道路のサービスエリアは日本人で大混雑だった。売店がすごく込んでいたので、歩道橋を渡って反対車線の店に買い物に行く。
パリに着いた時には夜も更けて真っ暗だったので、パリのどこにいるのかも分からなかった。まあ、明るかったとしても、どこにいるのかは分からないけれども。これで旅の目的がほぼ終わった。