「自転車についての話じゃない」

読了しました。
ただマイヨ・ジョーヌのためでなく ただマイヨ・ジョーヌのためでなく


It's Not About the Bike ( 原題 )
原題通り、自転車の話ではなく、自転車の話でもあり。単なる癌の闘病記というものを超えた1人の類まれなる自転車乗りの精神の成長の物語ですね。そこには家族や友人やチームのサポートがあり、医師や看護士の理解があり、そして本人の不屈の精神がある。
特に相手と戦うときに、相手の情報をとにかく手に入れ、まずは相手を知ること。医者の言うままにならずに、自分も治療プログラムに参加すること。この辺りは闘病という枠を超えた、スポーツという枠も超えた、人生の真理を含んでいるような気がします。医者の言葉は聞く、でも聞くけど鵜呑みにはせず、自分の知っている情報や、他の医者の意見も聞いて、最後は自分で選択する。スポーツ選手とコーチの関係でもあり、人生の後輩と先輩の関係でもあり。


闘病中の描写も圧巻ですが、寛解から自転車選手としての真の復活を遂げるまでの精神的な揺らめきは、人間の強さと弱さの描写として胸に迫るものがありました。闘病中の敵が見えている、目標が見えているときの人間の強さと、寛解期の目標を見失ってしまった人間の弱さ。この2つの苦しさを経験している選手であれば、自転車レース、特にステージレースの中でのちょっとやそっとの苦しい状態では、レースをあきらめたり、力いっぱい踏むことをやめたりしないですよ。純粋な選手としての強さと人間的な強さ、この2つを併せ持ってしまったランスにツール・ド・フランスで勝つことは、本当に簡単なことではありませんよね。