ドイツ日記 4日目

helguera2006-06-18

暑い、本当に暑い一日だった。
クロアチア戦に参戦するために、ICE(新幹線のようなもの)でニュルンベルグに向かう。この日の電車は日本にいる時に予約しておいたが、席が日本の新幹線のような横並び席ではなく、6人で一室のコンパーメントタイプの個室だった。自分も含めて予約済の乗客4名が日本人だったので、残り2人も予約していなかった日本人を引き込んで、6席全部を青で埋めたが、他のコンパートメントも同じようなものだった。


しかし、日本人は人数が集まっても歌える歌がない。対戦相手のクロアチアをはじめ、アルゼンチンや欧州各国など、サポが3人集まれば歌える歌があるが、日本にはコールに近い歌があっても、サポが共通して大声で歌える分かりやすい歌がないのが残念だ。日本固有の歌で、皆が歌詞の分かる歌があると良いのだが。


ニュルンベルグ駅で友人と合流し、スタジアムに向かう前にニュルンベルグ駅前の通りを往復してみる。人数的にはクロアチアサポと日本サポは同数に感じたが、声の大きさで圧倒的に負けていた。まあ、声の大きさだけではなくて、見知らぬ日本人サポ同士が共通理解している歌がないことも苦しい原因だろう。


ニュルンブルグ駅で食事を買い込んで、スタジアム駅に向かう。Sバーンの車中には、同じ車両にクロアチアサポがいて、大きな声で歌や「サヨナラ、ニッポン!!」と大声で騒いでいた。さすがに「サヨナラ、ニッポン!!」にはブーイングを返したが、第一戦の試合内容が試合内容なので、やられ放題なのが辛い。今日の試合ではクロアチアサポをギャフンと言わせるためにも、また8年前の借りを返すためにもきっちりと勝って欲しいものだ。第一戦の結果から来るこの肩身の狭さを、選手にも味わって欲しい。


スタジアム駅に到着したが、とにかく暑い。アスファルト上は優に30度を超えている。日陰は涼しいのだが、日差しは焼けるように暑い。日本だけこのグループの中で2試合連続3時キックオフというのは、挽回できないほどのハンディを試合前から背負ってしまっている。日本でのテレビ放映時間の関係かもしれないが、それでも2試合連続3時キックオフは日本の選手に「走るな」と命令しているようなものだ。日本側から希望しているのか、FIFAの配慮なのか、それともまったくの不運なのか本当のところは分からないが、試合開始前から不利な状態だ。


客席に入るとスタンドでさえ、日向はあまりの暑さにじっとしていられないほどだ。日陰ならともかく、日向の暑さは表現できない。スタジアムの構造が風が抜けにくそうなこともあるが、体感としては40度を超えていそうだ。立っているだけで辛いのだから、この条件で選手に走れと言うことは非常に心苦しいが、それでも勝利のために倒れるまで走って欲しい。本当に試合中に倒れてしまうと困るのだけれども。


キックオフから日本の様子がおかしい。前半を省エネサッカーでいくというのは理解できる天候だが、それでもあまりにもイージーなミスが多すぎる。あまりの暑さに体力を奪われる前に集中力を奪われているかのようだった。フィールドの選手の相手へのプレゼントパスにも肝を冷やしたが、川口のイレギュラーの処理ミスには本当に心臓が止まる思いだった。その他にもクロアチアにPK献上など、前半の45分間は声援を送りながらも、「今、テレビで全世界にこの試合が放送されているのだ」と思うと居たたまれない気持ちだった。クロアチアに決定力があったら、前半だけでも0−4ぐらいになっていそうな最悪の展開だったが、不幸中の幸いにもとにかく前半を0−0で終われたのはラッキーだった。前半の途中から、「早くハーフタイムになってくれ…」と何度腕時計を見たことか。繰り返しになるが、前半を0−0で終われたのは本当にラッキーだった。


後半開始から福西に代えて稲本を投入し、少し日本が落ち着いたように感じた。日本にとっては次の対戦相手を考えるとクロアチアよりも不利と思われるので、本当は早いタイミングでFWも代えて欲しいと思っていたが、さすがにそこまでの積極采配を期待するほうが無理か。しかし日本は王者ではなく挑戦者だと思っているので、リスクを賭けても勝ちにいくベンチの姿勢をもう少し見たかった。結果は同じだったかもしれないが、大黒に与えられた時間で何を期待すればいいのか。玉田の投入といい、今ひとつ効果的とは思えなかった。試合終了後に三都主だけが一人バックスタンドまで挨拶に行ったが、そんなところからも今のチームの状態の悪さが伺えた。2試合連続3時キックオフはきつすぎる。


試合終了後ローカル線でニュルンベルグ駅に戻ったが、試合前はあんなに元気だったクロアチアサポが、試合後はほとんど言葉を発しないことが面白かった。クロアチアにとって、日本は勝ち点3が計算できる相手国だったんだな。確かに前半を見ると勝ち点3を手中にしたも同然と思えただろうが。PKの失敗も含めて、クロアチアだって決定力がない。日本の方が重症かもしれないが。


同行した友人とニュルンベルグ駅舎の中のバーでお疲れ様の乾杯をする。勝ち点1とは言え、GL敗退決定は避けられたのだから、最悪の結果ではない。スタジアム外でフジテレビの西山喜久恵アナが泣きながらレポートしていたが、まだ泣くのは早すぎる。もう1試合、可能性はある。後に行われるブラジル対オーストラリアの試合の行方も気になるところだが、あまりの暑さで勝ち点計算すらできないような状態だった。


帰りはICEの予約が取れなかったので、臨時で運行されるICの予約をしてあった。ICEが日本の新幹線だとしたら、ICは特急か急行のようなものだ。今日の車両は客車が電車ではなく先頭の機関車に引かれるタイプの列車だった。日本でいう寝台列車のようなものだ。鉄っちゃんではないが、かなり乗り物好きであることは確かなので、エアコンすらない車内の暑さに辟易しながらも、開けた窓際にたたずんで、延々と続く丘陵地帯をみるのは気分転換になった。頭の中では「世界の車窓から」のテーマソングが延々とエンドレスで流れていた。日本にいれば試合終了後にひとしきり文句を言ったら寝る時間だが、こちらでは今日はまだたっぷりある。時差がないことが恨めしい。
ニュルンベルグ周辺の風景は、日本で言えば北海道の風景に似ていると思った。遥か先までうねる丘陵地帯と、時々越えるきつくはないけれど緑豊かな峠。日中の気温も北海道並なら良かったのだけれども。


フランクフルトに着いて、明日ドイツを離れる人々のお別れパーティに同席させてもらう。住宅街にある小さなレストランだったが、ガイドブックに出ているドイツの郷土料理をすべて食した気分だった。全体的に味がしょっぱくて塩が効いていることは確かだが、それでもホテルの無国籍な食事にくらべると数倍美味しかった。始まりが夜10時近かったのでお開きも相当遅い時間になった。電車で帰るのを諦めてタクシーでホテルまで帰ったが、運転手がいいおじいちゃんにも拘らず、飛ばす飛ばす。メーターは良く見えなかったが体感では140キロ近く出ていたと思う。少なくとも120キロは軽く突破していた。ドイツタクシー恐るべし。
気温もその他のことも、熱い一日だった