ドイツ日記 8日目

helguera2006-06-22

一太刀浴びせたが、返り討ちにあった。


試合が終了して、両チームの挨拶が終わっても、一人だけセンターサークル付近から動かず倒れたままの選手がいる。誰だろう、この大会でそこまで燃え尽きる選手は川口か中田ヒデしかいない。でも、ヒデはそんなタイプじゃない。でも、ゴール裏に挨拶に来た選手たちの中にヒデがいない。
他の日本の選手がベンチに下がり、ブラジルの選手に話しかけられ、スタッフに促されようやく立ち上がった。やはりヒデだ。どうやら、一人でスタンドに向かって歩いてくる。すでにまばらになった日本側スタンドから小さなヒデコールが起きる。手を振るヒデ。あぁ、本当に代表を引退しちゃうのかな。そうでなければ、試合後にあそこまで動かないヒデの姿は想像がつかない。あの、クールなヒデが…。


日本が先制したときの感情をなんと表せばよいだろう。覚えていることは、ブラジルサポの方に向かって「ざまーみろ!!」と何故だか大声で叫んでいた。勝って欲しいとは思っていたが、冷静に考えれば勝てる相手ではない。GL突破を決めていることもあり、ブラジルサポは試合開始前から余裕だった。それでもここまでの2試合では何も言い返せない日本代表の無残な戦いだったから、余計に嬉しい先制点だった。「勝てるかもしれない…」とひと時だけでも夢を見させてくれた日本代表に感謝している。


フランクフルトからICEで移動する車中も寒かった。「エアコンが効きすぎなのかな」と思っていたが、2時間半近く乗ってドルトムントに下りると体が震えるような寒さだった。駅前を繁華街まで歩き、ブティックのような店でセール中のTシャツを買って代表ユニの下に着込んだ。いつも持ち歩くウィンドブレーカーは持っていたが、緑色なのでブラジルカラーになってしまうから試合前や試合中は着たくない。ブラジルサッカーは好きだけど、それでも今日は戦いだ。


市街地からUバーン(地下鉄で路面電車のようなもの)に乗って、スタジアムへ向かう。Uバーンの車内は空いていたが、スタジアムに着くと周辺は大混雑。人が多いこともあるが、あちこちでブラジルサポがサンバを奏でて踊っているので、人がうまく流れない。4年前の横浜の決勝戦の時は好意的に見ていたブラジルサポだが、対戦相手となると迷惑なだけだ。内心では「どけよ、このやろう」と思っていたが、大人気ないので口には出さなかった。


セキュリティを通り、チケットチェックをする前にオフィシャルショップに寄る。買い物は趣味ではないが、頼まれものなどもあったので寄った。ところがそこは日本人で大混雑。他の会場でもオフィシャルショップは覗いたが、ここまで混雑しているところは見たことがなかった(クロアチア戦は寄ってない)。並んでいる人が多いだけではなく、一人が買う量が半端じゃない。他の国のサポはマフラー一枚とかTシャツ一枚のことが多かったが、日本人はマフラー4〜5枚とか、Tシャツも数枚買った後、さらにキーホルダーのような小物も買い、その上で公式プログラムも買う。販売方法も、注文を聞いた店員がいちいち後ろの棚に取りに行くので余慶に時間がかかる。「混んでるけど、15分ぐらいで買えるかな」と思っていたが、45分かかった。試合前から、クタクタだ。


スタジアムに入ると、席は日本側サポが陣取るゴール裏2階のかなり上段だった。ピッチは遠いが、見にくいわけではない。横浜国際のゴール裏2階最前列よりも近く感じるだろうか。
ただ、日本サポの青い固まりが、メインコーナー付近、ゴール裏2階、バック日本側と大きく分かれ、間に地元ドイツ人やブラジルサポがサンドイッチされているような状況だったので、コールが上手くまとまらなかったと思う。メインコーナー付近で何を歌っているかすら、聞こえないこともあった。


また、ブラジルサポか現地ドイツ人かが、何度も何度もウェーブを仕掛けてきたが、ほとんどの日本人サポが反応していないのは素晴らしいと思った。ワールドカップというお祭りである前に、日本代表にとっては後のない試合なのだから、試合前はともかく試合が始まってからは仲良く付き合っている場合ではない。ウェーブに反応している日本人も近くにいたが、思わずブーイングしてしまった。可能性はどんなに少なくとも、我等が日本代表が目の前でブラジル相手に戦っているのだから、サポーターがブラジル人と仲良くウェーブしている場合じゃないだろう。サポは戦いに来たのだろうか、それとも楽しみにきたのだろうか。スタンドが戦う姿勢を見せないと選手が戦わないし、選手が戦わないとスタンドも戦えない。鶏が先か卵が先かではないが、両者が戦わないと奇跡は起きないだろう。


試合についての感想は書かない。川口の前半のファインセーブ連発や後半点差が開いても一人走り回る中田ヒデの頑張りには涙が出そうになった。そして、途中からあの監督を選んだ協会に最大限のブーイングをしたい気持ちで一杯だった。実際に試合をするのは選手かもしれないが、その選手たちが最大限の力を発揮できるように、環境を整え、良い監督を選び、チームとしての強化が進むように準備をするのが協会の仕事だろう。4年前の監督選びでつまずいて以降、協会が選手のサポートを最大限してきたとは思えない。戦った選手たちには不満もあるが拍手を送りたい。が、協会には大ビーイングをしたい気分だった。


余裕をかますブラジルサポに囲まれUバーンでドルトムント駅まで帰り、フランクフルトまで走るICEを待つ。予約が取れなかったので早い者勝ち状態だったが、予定の16番ホームで待っていたら、先行する列車の遅れが原因で反対側のホームに入ってきて、出遅れてしまった。席は確保できなかったが、車両の中央付近の荷物置き場前の通路を確保できたので、通路に座り込んで足を荷物置き場の下に伸ばす。さすがに横になることはできなかったが、立っているよりは数倍楽だ。途中のデュッセルドルフとケルンで空いたのでそこからは座ることができたが、それでも嬉しさよりは悔しさと虚しさで一杯だった。
日本代表のワールドカップが終わった。いや、4年間が終わったというべきか。