協会の責任

NHKでもオシムさんの特集が流れるなど、世の中ではオシム新代表監督の就任の機運が高まっています。私はオシムさんの展開する千葉のサッカーに非常に興味があったので、就任1年目からチャンスがあるごとに千葉の試合には出掛けていました。前の監督の日本代表がうまくいかないときに、「オシムさんだったら立て直せるな」とは思っていましたが、本大会前にはそんなチャンスは訪れませんでした。そして、1分2敗勝ち点1得点2失点7得失点差マイナス5という当然の結果。


「新監督は誰にするのだろう」とか、「この4年間の責任と総括を協会(川淵)は考えているだろうか」ということを漠然と考えているうちの「失言」騒動。監督としてのオシムさんの能力はまったく疑いません。でも、そんな決め方でいいのか? という強い疑問と汚いやり方に対する怒り。この”汚いやり方”の部分は3つの理由があります。


1.このタイミングでの新監督騒動
ドイツからの帰国当日に新監督候補の名前を漏らすことによって、ドイツでの惨敗とその監督を選んだ会長の責任から世間の目をそらす意図が見え見え。本当に「失言」だったとしても、結果的にこの4年間の総括がないがしろにされたことの責任は重い。


2.失言で既成事実を作ってしまう
交渉中の相手であるにもかかわらず、記者会見で名前を漏らすことで「すでに決まったようなものですよ」という印象を世間に植え付ける。この場合、交渉が不調に終わった場合、協会の責任ではなく「オファーを受けなかった相手に非がある」という印象になりやすい。


3.現在Jクラブの監督を強奪する
シーズンオフならいざ知らず、また予選の最中で次の試合に負けるとワールドカップがなくなるという非常事態ならいざ知らず、ワールドカップ敗退後で世界的にはオフシーズンであるにもかかわらずJの監督を強奪する理不尽さ。「日本の選手を理解していて監督としての実績もある」という選考理由は一見もっともらしいですが、裏を返せば「そこまで日本を立て直さなければならないような非常事態に陥れたのは、誰のせい?」ということです。その責任問題や総括がなされないまま、「日本にとって危機的じょうきょうであるから、Jの監督を譲れ」という理屈にはならない。予選の最中で本当に時間がないなら分からないでもないけれど、公式戦とは言えアジアカップ予選が差し迫っているぐらいでは、Jの監督を強奪する理由にはならない。
日本選手のことをよく知っていて、監督としての実績も(そこそこ)出していて、現在フリーの監督がテレビ東京で解説してるでしょう。もう一度やって欲しいとは思いませんが、現在Jのクラブの監督を強奪するという理不尽なことをするぐらいなら、そのほうが遥かにマシです。


いくら協会の非を責めても、オシムさんが受けるつもりなら新しい日本代表監督に決まってしまうでしょう。その場合、オシムさんの能力については心配していませんが、協会は本当にオシムさんをバックアップできるのか。
これからオシムさんが乗り出そうとしている道は、4年前よりも簡単ではありません。これまでの日本代表で最高の経験を積んでいる選手達の多くは、このドイツ大会が年齢的なピークになっていて、ワールドユース準優勝メンバーも次の大会を計算できない年齢になってしまっている。その次の世代は協会の強化方針の揺らぎの影響を受けて、世界大会に出場しているわりには経験を積めているようには思えない。今の大会には若手を連れて行ってもいない。
「谷間の世代」ではなく「協会が谷間にしてしまった世代」を率いて次の日本代表を構築しなければならない。


そのためにはスポンサーの多数付いている人気選手を外す必要が出るかもしれないし、若手に経験を積ませるため捨てる試合も出てくるかもしれない。そのような時に、協会が集金を忘れて本気でオシムさんをバックアップできるのか。強化のために集金できる国内の親善試合ではなく金につながらないアウェイの試合を増やすかもしれない。その時に協会はスポンサーを抑えられるのか。
そして協会は知ってか知らずか、前の監督とは別の意味で更迭できない監督を選んでしまったのですよ。千葉と言うクラブとサポーターにこれほどの犠牲を強いて強奪した代表監督を、簡単に切ることなんてできませんよ。そんなことをしたら、協会は全Jサポーターを敵に回すことになる。
そこまでの覚悟を持って、協会はオシムさんを据えているのか。


逆のパターンを考えて見てください。日本代表に優秀な監督が就任して実績を上げていた。そんな時にJのビッグクラブが前の監督を解任して日本代表監督を任期中に引き抜いた。それだけでも許しがたいことですが、強くならないのはクラブの体質に問題があるにもかかわらず、半年経ってもチームが立て直しできないという理由で、その監督をさらに解任してしまったら…。でも、立て直せないのは監督のせいではなくて、何事にも口を出すワンマン会長が選手選びにまで口を出していたとしたら…。


今回の新しい日本代表監督はこのままオシムさんで決まってしまうかもしれません。しかし、日本代表を見るときに千葉が払った犠牲や譲歩を絶対に忘れてはいけないと思います。本当は強奪そのものを許せないけれど、オシムさん自身が最後の挑戦と考えてくれるのなら、日本にとってこんなに幸運なことはない。しかし、どんな結果になっても、日本代表の強化のために任期途中の自国リーグの監督を強奪したのだと言うことは忘れてはいけないと思います。



今回の8月の代表戦は日程的に難しいのですが、オシムさんが代表監督になった場合、千葉の選手を8人ぐらいスタメンで使って、千葉で外国人選手がやっているポジションだけ他のクラブの選手を使えばいいのに、と思っています。贔屓とかではなくて、「オシムイズム」を現時点で一番理解しているのが千葉の選手達ですからね。時間の経過とともに他のチームの選手にも広がっていくことだとは思いますが、最も短期間で日本代表を立て直す方法だと思っています。