東京ヴェルディ 川勝監督辞任に関して思うこと

今日、辞任という形で川勝監督が2年半指揮を執ったヴェルディを離れることになりました。最終的にこのような形になるまでクラブフロントと監督の間にどのようなやりとりがあったのかは部外者である私にはまったく分かりませんし、恐らく今後も事情が漏れてくることはないでしょう。ただ、解任ではなく自らが辞める辞任であるあたりが、様々な意味を持っているような気はします。財政的に厳しいクラブの監督を引き受けて、まがりなりにも3シーズンとも昇格を争えるような位置にはつけてくれたこと、これは感謝しかありません。でも、ここ1カ月ぐらいのチームの流れを見ると辞任(または解任)は時間の問題だったような気はしますし、10試合を残してリーグ戦の短い中断をはさむ今がラストチャンスだったのだろうと思います。


私自身スタジアムに毎試合行けるような熱心なサポではありませんし、スカパーの録画ですら全試合見ているわけでもない。でも、ヴェルディというクラブを定点観測していた中で川勝監督について感じていたことを書き残しておきたいと思います。
まず川勝監督について一番大きく感じていることは、監督という枠の中にいる人だけど、指導者であって勝負師ではない、と2年半ずっと思ってきました。もし川勝監督がユースチームの監督だったとしたら、これほどの適任者はいないと思います。サッカー選手として育てる前に、その選手を人間として育てるところから始める素晴らしい方だと思います。でも、J2というカテゴリーとはいえプロクラブのトップチームの監督なのだから、やはり成績という結果が求められるし、時に素晴らしい内容で負けるよりもつまらない内容でも勝つ方が評価されるのは当然のこと。評価の軸は監督を雇ったクラブフロントが求めるものによって決るので、監督が指導者だからダメだというわけではありません。1年目や2年目は羽ばたく準備の年だからフロント的にはOKだったのかもしれない。でも、勝負の3年目は待てなかった。


就任1年目だったと思いますが、FWの平本一樹選手を執拗にサイドバックで使っていた時期がありました。守備の仕事をやる中で相手選手のこういう動きはやっかいだとか教える意味だったことは分かります。でも、それは練習試合やユースの時代ならともかくリーグ戦の公式戦を使ってやることかと呆れたのを覚えています。平本選手にとっては貴重な体験だったかもしれませんが、その時期に勝利という結果は余り出ませんでした。
今季開幕当初は20歳の小林祐希選手をキャプテンに任命しました。これも技術的にはまったく問題のない選手だけどコミニュケーションに問題があるならキャプテンにすることで自らも成長するだろうし、まわりのベテラン選手も自らの経験で若いキャプテンを盛り立てていって欲しい、という監督の意図は痛いほどに分かります。でも、結果的には小林選手はあまりスタメンでは使われず、プレッシャーから逃れるように磐田に移籍してしまった。
この二つのことはたまたま裏目に出たことであって、阿部選手などは順調に育ってますから全てが下手を打ったとは言いませんが、やはり勝負師ではなく頭の中が指導者、育成者としての価値観の方が強かったのだろうと思ってます。


シーズンの前半を棒に振る覚悟で選手を育てて、シーズン半ば過ぎにようやくチームが完成して、シーズン後半に少しは追い上げるけど終盤に息切れして5位、というのが1.2年目でした。それでは苦労して育てた選手を使って来季こそとなるわけですが、J2の貧乏クラブである今のヴェルディではJ1や海外に出ていく有望選手を引き留める力も弱く、次のシーズンはゼロからやり直し。そんな悪循環を今年こそ断ち切れるかという予想以上の立ち上がりを見せた今シーズンでしたが、杉本選手のレンタル終了と小林選手の移籍に伴う新たな選手補強をしたあたりからチームがあっという間に崩れてしまいました。


もともとチームを作るのに時間がかかる監督でしたが、今年はシーズン途中でチームを立て直さなければならなくなったけど、立て直すどころか崩壊してしまった、というのがこの1ヶ月間だったと思います。今年は珍しくフロントも選手が抜けた穴を埋めるべく迅速に補強に動いたけれど、抜けた穴にピタリとはまるピースではなかったためによりバランスを崩し、ピッチ上の選手たちは試合中にどう動けば良いか分からなくなり、監督も短時間で立て直せなかった。このまま川勝監督に立て直しを任せたらチームが出来上がるのはシーズン終了後になってしまうが、今季の3〜6位はプレーオフというレギュレーションを考えると育成型の監督よりも目先の試合で結果を出せる監督の方が昇格への可能性は高いかもしれない。


川勝監督の頭の中には理想のサッカーが明確にあった。パスをつないで人もボールもよく動いて相手を崩して得点する、自分たちが主体のサッカー。でもヴェルディというクラブはそれに合う選手を短期間で呼び集められるような金満クラブでもないし、そのような選手が育つのを何シーズンも待てるような経営的に余裕のあるクラブでもない。手駒が少ない時期に川勝監督がやりくりして戦ってくれたことには十分感謝しているけれど、今年は結果を出さなきゃいけないシーズンだった、プロの監督として。
外国籍選手のことだけをとっても、この3年間使える外国人選手を呼べなかったクラブの問題なのか、外国人選手を使いきれなかった監督の問題なのかは分かりません。今シーズン途中の補強の失敗も監督のせいではなくクラブに原因があるのかもしれない。でも、シーズン途中で何かを大きく変えるなら監督交代しか手はない。残念なことだけど、このタイミングでの監督交代は必然だったと思います。


繰り返しになりますが、このような形でのお別れですがそれでも川勝監督には感謝の気持ちの方が大きいです。今季はシーズン中に首位にも立って夢をみることもできた。でも、やはり勝負弱い監督であったことは確かだし、それは目先の結果よりも夢を追う、リアリストではなくロマンチストの監督だったからなのだと思ってます。今はプレーオフ圏内からも落ちちゃってますが、仮に川勝監督のまま6位以内に入ってプレーオフに臨んだとしても、この勝負弱い監督ではとても勝てる気はしなかった。以前アウェイゴール2倍ルールを知らずに入れ替え戦に臨んだ実績のある監督だし。次戦の天皇杯は代行監督で臨むようですが、育成とか自分たちのサッカーとかに捉われず、目の前の試合に勝つ、それを最優先する監督に残り試合を委ねていただきたい。そしてチームにはこの辞任という決断をした前監督の為にも結果を出して欲しいと強く願っています。