クラブや選手のストーリーとは

サッカーの集客について考えるときに、映画や舞台を見に来る人の動機を参考にしています。例えば出演している人が好きだから、演出家や監督の作品のファンだから、ストーリーや作品のジャンルに興味があるから。何かしらの興味がまず先にあって、それからチケットを買い劇場に足を運ぶ。
もし、出演者も知らない人で、演出家や監督も無名で、ストーリーについてもイメージがわかない、そんな舞台や映画に対して、わざわざお金を出して見に行く気持ちになるのかどうか。


興味があるの反対側にあるのは、無関心だと思います。人は興味がある対象に対してはお金を出してでも手間暇をかけてでも見に行こうと思うけれど、興味がないものに対しては行動しない。すでにスタジアムに通ってくれている人々は別にしても、スタジアムに通える範囲に住んでいて時間的経済的にその余裕もあるのに来てくれる人が増えない理由。それは関心がない以前に、クラブや選手のことをまったく知らない状態に近いのではないかと。


例えば三浦カズ選手について、カズのまたぎフェイントは試合の勝ち負けに関係なくお客さんが喜ぶ。それは客が先にカズのマタギフェイントを知っているからこそ実際に見ると喜ぶわけで、知らなかったら今どきあんなフェイントは通用しないだろって切り捨てられちゃうかもしれない。またカズが得点後にカズダンスを踊るのだって試合の流れには一切関係ないけれど、それでもお客さんは喜ぶ。


Jの開幕当初でクラブ数が少なかったころには日本代表の選手=そんなにコアなお客さんじゃなくても顔と名前とプレーの特徴ぐらいは分かってた選手が、それぞれのクラブに何人かいて集客のきっかけになっていた。でも、最近は日本代表選手のほとんどが海外のクラブに所属しているし、ましてやJ2には全国的知名度のある選手はほとんどいない。
だとしてらそれぞれのクラブは、地元のお客さん予備軍に向けて自分たちのクラブに所属している選手のアピールポイントをもっと積極的に売り出さなければいけないんだと思う。カズのまたぎフェイントじゃないけれど、●●選手のロングスローは凄いから一度見る価値があるとか、ドリブル突破が売りの選手、クロスの精度が凄い選手、ミドルシュート、長い距離のサイドチェンジのパス、ヘディングの競り合いでは負けない選手、90分間走り負けない選手。何でもいいんです、ただ全ての選手にセールスポイントが欲しい。一芸に秀でてるものが欲しいし、クラブはそれをお金を使ってでもお客様予備軍に売り込まなければいけない。


サッカーはスポーツですが、お金を払って見に行く形態を考えればエンターテイメントでもある。そうであれば今まで興味のなかったお客様を呼び込むためには、お金を払ってでも見たいという何かを自分たちで作りださなきゃいけないと思うのです。それが勝敗のクラブもあっていいと思うけど、全てのクラブが強くてビッグクラブになれるわけではなく、むしろ弱くて小さいクラブの方が多いかもしれない。それでも安定的に運営をしていくためには、勝敗にかかわらずお客様を喜ばせる何かがないと厳しい。手持ちの資産の中で考えるなら、選手の個性を売りにするのが一番良いし、正統な方法でもあると。


J開幕当初のようなクラブが何の努力をしなくてもメディアが取り上げてくれる時代はとうの昔に終わったので、今はクラブがお金を使ってでも地域のお客様予備軍に自軍の選手をアピールして、まずは認知してもらわないと何も始まらない。興味のない人にスタジアムに来てもらうためには、という命題はすべてのクラブが考えているのだろうけれど、何を売りとして来てもらうのかというのが今のクラブ運営からは見えてきにくい。スターシステムではなく、サッカーの本筋に関わる部分でのそれぞれの選手のアピールポイントを見つけ宣伝していく。選手を集めるときに勝ち負けだけではなく、客を呼べる選手かどうか。日本のサッカーって、その部分をどう考えているのかな。非常に気になります。